2022年1月
英国イングランドにおけるHPVワクチン接種プログラムが子宮頸がんと高度異形成・上皮内がんの発生率に及ぼす影響:登録ベースの観察研究
2価HPVワクチン接種の有効性を示す初の直接的証拠
特に12~13歳で定期接種を受けた女性で子宮頸がん予防効果が高い
要旨
- ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンによるHPV感染や子宮頸部異形成を予防する効果はこれまで示されてきた。しかし、子宮頸がんの実際の発生率を示したエビデンスは不足している。
- 英国イングランドでは、同国の子宮頸がんの約8割の原因となるHPV16型と18型の感染予防を目的に、2008年9月1日より2価HPVワクチンを用いた全国HPVワクチン接種プログラムを導入した。12~13歳の女性が定期接種の対象となり、2008~2010年には14~18歳をキャッチアップ接種プログラムの対象とした。本研究は、プログラム導入による子宮頸がんと子宮頸部異形成・上皮内がん(本研究ではCIN3に相当)の発生率に対する早期影響を検証した観察研究である。
- 英国イングランドのがん登録データベースを使用し、2006年1月1日から2019年6月30日までの間に子宮頸がんとCIN3の診断を受けたイングランド在住の20~64歳女性を抽出した。年齢や時代別のコホートモデル(共通の因子を持ち観察対象となる母集団のこと)を用いて、3つの世代別のHPVワクチン接種コホートと非接種者コホートを比較することで子宮頸がんの相対リスクを予測した。結果に影響を及ぼすと考えられる交絡因子は、子宮頸がん発生率に影響を及ぼすような子宮頸がんスクリーニングプログラムの変更や歴史的イベントによって調整された。
- 研究期間内に子宮頸がんと診断された女性は約2万8千人、CIN3と診断されたのは約32万人だった。HPVワクチン接種を受けた20歳以上30歳未満の女性の合計1370万人年
年分の追跡調査データを用いた。(注:人年とは1人を1年間観察すれば1人年に相当。 2人を5年間観察すれば10人年に相当する疫学研究の方法) - HPVワクチン非接種者と比較し、子宮頸がんの相対リスク減少は16~18歳での接種群で34%減少(95%信頼区間 [CI]、25-41%)、14~16歳接種群で62%減少(95% CI、52-71%)、12~13歳接種群で87%減少(95% CI、72-94%)という結果になった。CIN3についても同様に推定し、16~18歳で39%減少(95% CI、36-41%)、14~16歳で75%減少(95% CI、72-77%)、12~13歳で97%減少(95% CI、96-98%)となった。
- 2019年6月30日までに、HPVワクチン接種によって子宮頸がんと診断された女性は予想より448人(95% CI、339-556人)少なくなり、CIN3と診断された女性は予想より1,7235人(95% CI、1,5919-1,8552人)少なくなったと推定した。
ポイント
- 英国イングランドで2価ワクチンの全国HPVワクチンプログラム導入は、若年女性の子宮頸がんとCIN3の大幅な減少に結びつき、特に12~13歳で定期接種を受けた女性で予防効果が高かった。
- 本研究は、大規模データで2価ワクチンが子宮頸がんの発生率を減らすことを初めて示したものとなる。
補足
- 2012年9月1日以降、国のワクチンプログラムが4価HPVワクチンに変更されたため、本研究はそれ以前の2価ワクチン接種者を対象としている。
- デンマーク、スウェーデンでも最近同様の疫学研究結果が公表され、日本のHPVワクチン接種勧奨差し控えの中止にも影響を与えた大変インパクトが大きい論文である。
10年間にわたる医学部新入生女子を対象としたHPVワクチンに関する質問紙調査
HPVワクチンの接種率は2019、2020年度の新入生で著明に減少していた。
HPVワクチンの定期接種対象期間があったものの、HPVワクチンそのものを知らずに過ぎてしまった学生が多くいた。
要旨
- 子宮頸がん予防の二つの柱としてHPVワクチンと子宮頸がん検診があり、HPVワクチンの定期接種は小学校6年生から高校1年生相当までの女性が対象で、子宮頸がん検診は20歳以上の女性が対象となっている。しかし、現在の日本ではHPVワクチン接種率はほとんどゼロに近く、検診受診率も40%程度となっている。
- 大学新入生女子という集団は、現在では入学以前にHPVワクチン接種の対象者だった世代で、HPVワクチンが日本に導入された当初には公費助成の対象とならず自費で接種を受けた可能性のある世代である。また、もう数年で子宮頸がん検診の対象となる世代でもある。
- 現在の日本の状況を打開していく方策を見つける基礎データとして、若い女性のHPVワクチン接種はどの程度行われているか、子宮頸がん予防をどのように捉えているかを明らかにするために、大学新入生女子を対象とした質問紙法による経年的な調査を行った。
- 調査期間は2011-2020年の10年間、横浜市内の大学医学部(医学科、看護学科)の新入生女子を対象として調査を行った。質問紙法(アンケート調査)は、年齢、HPVワクチン接種歴、子宮頸がん予防に関する知識、性教育の内容に性感染や子宮頸がん予防が含まれていたかなどの内容で構成されている。
- ワクチン発売直後で公費助成がなかった世代のHPVワクチンの接種率は2011年5.4%、2012年13.5%であったが、緊急促進事業として費用の大部分を公費で負担するようになった2013年は48.5%と急激に上昇し、その後は同程度からやや減少した接種率であった。HPVワクチンは2013年4月に定期接種化されたものの、副反応の報告を受け同年6月に行政による積極的勧奨が中止となっている。この時に接種対象となった世代が2019年以降の新入生であるが、2019年14.3%、2020年5.1%と劇的にHPVワクチン接種率が減少していた(図1)。対象が医学生であるためHPVワクチン接種率は低いながらも、日本国内の他の地域での報告よりは高い傾向にあった。
- 2014年からは副反応の報道のあとにどのように対応したかも調査した。2019、2021年の新入生では報道後に接種を控えたと答えた学生が増えたことに加え、報道自体を知らなかったと答えた学生も増加していた(図2)。
- HPVワクチン接種に関連する要因を明らかにするために、接種率の高かった2015/2016年新入生(接種率65.2%)と低かった2019/2020年新入生(9.8%)を比較検討した。2019/2020年新入生では2015/2016年新入生に比べてHPVワクチンの認知度、性教育に子宮頸がん予防が含まれていたと答えた割合、HPVワクチン接種の実施の詳細を知っていた割合が低くなっていた。
ポイント
行政の積極的勧奨の中止を受け、HPVワクチン接種率は激減していた。接種率の低下だけでなく、HPVワクチンを知らない学生、副反応報道を知らない学生も増加している。子宮頸がん予防の推進のためには、広くHPVワクチンの知識の普及を行うことと、速やかな積極的勧奨の再開、対象期間に接種を逃した女性に対する支援を考慮する必要があると考えられた。
【海外9価HPVワクチン特集論文(3)】4価HPVワクチンの単回投与後の9価HPVワクチン接種による9タイプのHPVに対する免疫反応
4価HPVワクチンの単回投与後の9価HPVワクチン接種による9タイプのHPVに対する免疫反応
4価HPVワクチン2回目の接種を受けなかった者に対して9価(9vHPV)を打った場合の予防効果は妥当性がある
ポイント
- 2回接種で予防接種プログラム完了としている地域において、4価HPVワクチン(4vHPV)の初回接種後に何らかの理由で2回目の接種を受けなかった者に対して9価(9vHPV)を打った場合の予防効果の妥当性を示す一つのデータとなった。
- 4vHPV接種後の被検者の抗体価の平均値(GMT)はHPV6, 11, 16, 18に対してそれぞれ、6.1 AU/ml, 7.7 AU/ml, 20.1 AU/ml, 6.3 AU/mlであった。4vHPV接種の時点で既にほかの5つのHPV(31, 33, 45, 52, 58)に対しても抗体力価(2.2 AU/ml, 1.6 AU/ml, 2.9 AU/ml, 1.0 AU/ml, 1.8 AU/ml)が検出された。結果として58-87%の被検者において、4vHPVでカバーされていない5つのHPV(31, 33, 45, 52, 58)に対して抗体陽性を認めた。
- 9vHPV接種1か月後には、36倍~89倍にまで9種類すべてのHPVに対する抗体価が上昇した。
- 単回の4価ワクチン接種数年後でも他のHPVタイプに高い抗体陽性率が確認され、さらに9vHPVを接種したところ9種類のHPVすべてのタイプに対する免疫反応の増加が認められ、単回投与しかしていないワクチン接種者で4価から9価への変更を検討する場合に有用なデータとなり得ると考えられた。
- 9vHPV接種1か月後までで、重篤な副反応は認めなかった。
詳細解説
- カナダでは2回接種を国の接種基本プログラムとしているが、2回目接種を受けないドロップアウト者が5%程度存在する。何らかの理由でワクチンの種類を変えなければならない場合に、本研究のデータは有用なものとなるだろう。
- 研究の対象は13~18歳までの女子で4vHPVを一度のみ受けたことがある31名。
- 4価HPVを受けてから今回9価HPVを受けるまでは3-8年のインターバルがあった。
- 9価ワクチンを受けた後は約1か月後に血液検査にて抗体価の測定が行われた。
- ELISA法を用いて9価HPVに含まれる9種類のHPVに対する抗体の存在を測定した。
- 4価HPVのみでカバーされていない5つのHPV(31, 33, 45, 52, 58)型に対しても抗体反応を認めた場合、続いて接種する9vHPVによってブースター効果(抗体産生が増強すること)を認めた。これは単回の4価HPVによって9タイプのHPVに対する免疫プライミング(免疫系を活性化するための予備刺激)が起こっていたことを示す。
本研究の問題点
- 研究参加者の数が31と小さいこと。
- 比較対照群(4価HPVワクチンまたは9価HPVワクチンを2回接種した群)を用意していなかったこと。
【海外9価HPVワクチン特集論文(2)】フランスにおける9価HPVワクチンによる潜在的な疾患発生抑制効果
9価HPVワクチンにより潜在的に90%の浸潤がん・高度扁平上皮内病変・外陰疣贅・肛門がんの発生が抑制される可能性がある
フランスにおける9価HPVワクチンによる疾患発生抑制効果を予測
要旨
- フランスで行われた臨床試験 Etude de la Distribution des Types d’HPV(EDiTH)で、HPV関連疾患(浸潤子宮頸がん516例,高度扁平上皮内病変(HSIL)493例,軽度扁平上皮内病変(LSIL)397例,外陰疣贅423例,咽頭喉頭がん314例)の病変からDNAを抽出して、HPVのサブタイプを解析した。この先行研究では、4価(6/11/16/18型のHPVを予防)のHPVワクチンは14-33%の軽度扁平上皮内病変および70-83%の子宮頸がんや肛門がんに潜在的な効果があると報告されている
- 本研究では、前述の臨床試験のデータを用いて、4価(6/11/16/18)のHPVワクチンと9価(6/11/16/18/31/33/45/52/58)HPVワクチンの潜在的な効果を比較した。
- 潜在的な効果の見積は、病変から検出されるHPVのサブタイプが、HPVワクチンのカバーするタイプと一致すれば潜在的な効果があると判断している。指標は二種類を用いている 低い見積;①9価ワクチンでカバーされるサブタイプ(6/11/16/18/31/33/45/52/58)のみが検出されその他のHPVサブタイプの感染を認めない症例の割合 高い見積;②9価ワクチンでカバーされるサブタイプ(6/11/16/18/31/33/45/52/58)に加えて、他のHPVサブタイプも検出される症例の割合
- HPV9価ワクチンの潜在的効果は、浸潤子宮頸がんで85%(低い見積)から92%(高い見積)、 子宮頸部高度上皮内病変で77%から90%、子宮頸部軽度上皮内病変で26%から56%、外陰疣贅で69%から90%、肛門がんで81%から93%、咽喉がんで41%から44%であった。
- 9価HPVワクチンと4価HPVワクチンの比較で、カバーするサブタイプの追加効果を検討すると、子宮頸がんで9.9%(低い見積)から15.3%(高い見積)、子宮頸部高度上皮内病変で24.7%から33.3%、子宮頸部軽度上皮内病変で12.3%から22.7%、外陰疣贅で2.1%から5.4%、肛門がんで8.5%から10.4%、咽喉がんで0.0%から1.6%の追加効果が想定された。
ポイント
多種のHPV関連疾患より検出されるHPVサブタイプを解析して、9価HPVワクチンによる疾患発生抑制効果を予測した。9価(6/11/16/18/31/33/45/52/58)HPVワクチンは4価(6/11/16/18型)ワクチンと比べ、浸潤がん・HSIL・LSILに対する潜在的な効果を有意に増加させることが推計された。
補足
- 各HPV関連疾患のHPVサブタイプを解析し、4価ではカバーされないが9価でカバーされる症例の割合(追加効果)を、子宮頸がんの9.9%-15.3%、HSILの24.7-33.3%、LSILの12.3-22.7%、外陰疣贅の2.1-5.4%、肛門がんの8.5-10.4%、咽喉がんの0.0-1.6%と想定した。
- HPVの混合感染を認める病変の場合、どのHPVサブタイプが発がんの原因となっているか特定が困難である。単独感染の場合はそのHPVが原因と推測され、混合感染の場合はそのHPVが発がんの原因となっている可能性がある。そこで潜在的な効果の見積には「低い見積」と「高い見積」二種類の指標を用いている。
【海外9価HPVワクチン特集論文(1)】9価HPVワクチンの関連する疾患および子宮頸部手術に対する有効性:過去の偽薬(プラセボ)集団との比較
以前に行われた4価ワクチン・プラセボ比較試験のプラセボ群を使用し、9価ワクチンの効果を推計
9価HPVワクチンはプラセボと比較して有効であると推計された
要旨
- 9価ヒトパピローマウイルスワクチン(以下、9価ワクチン)は、以前より使用されている4価ワクチン(HPV6、11、16、18)に5つの型(31、33、45、52、58)を追加した9つの型のHPVに対するワクチンです。
- 4価ワクチンの効果を判定するために行われたFUTUREⅠ(NCT00092521)、 FUTUREⅡ(NCT00092534)のふたつの臨床試験は4価ワクチンを接種した群と対照群としてプラセボを接種した群を比較検討したものです。
- 9価ワクチンの効果を判定するために行われた臨床試験(NCT00543543)では、すでにHPVワクチンの有効性が確認できていることから、対照群をプラセボ接種とすることができず、4価ワクチンを接種しています。このため、9価ワクチンの接種者と非接種者の比較検討はできていません。
- 上記の3つの臨床試験は同じ適格基準(研究に参加するときの基準)を用いているために、以前に行われた4価ワクチンのための臨床試験FUTUREⅠ、FUTUREⅡのプラセボ接種群をNCT00543543の9価ワクチン接種群と比較することで9価ワクチンの効果を明らかにすることを試みた研究です。(図1)
- まず、臨床試験の開始時に14種類(6、11、16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59)のHPVの感染がなかった参加者のみで検討を行いました。これはHPVワクチンの理想的な接種の対象である性交渉を持つ前の集団を想定したもので、9価ワクチン群は4365人、プラセボ群は5887人でした。9価ワクチン群では平均4年後まで、プラセボ群では平均3.6年後までフォローアップされており、その結果を比較しています。高度子宮頸部病変(前がん病変)は9価ワクチン群では2症例、プラセボ群では141症例あり、9価ワクチン接種により98.2%の減少、子宮頸部手術(円錐切除術など)は9価ワクチン群では3症例、プラセボ群では170症例あり、ワクチン接種により97.8%の減少が認められました。また、腟と外陰部の高度病変は9価ワクチン群では0症例、プラセボ群では29症例あり、ワクチン接種により100%の減少が認められました。(図2)
- 次に、臨床試験開始時のHPV感染があった参加者を含めて検討を行いました。すでに感染していたHPVの型が関連する病変の予防効果はありませんでしたが、すでに感染していたHPVの型以外が引き起こす子宮頸部、外陰部、腟の病変に対しては発生を減少させる効果がありました。たとえば、臨床試験開始時にHPV6、11、16、18のどれかに感染していた参加者でも、HPV31、33、45、52、58のどれかが関係する子宮頸部病変については9価ワクチン群ではプラセボ群に比べて91.1%減少していました。
ポイント
-
- 性交渉前のHPV感染が起こっていない集団への9価HPVワクチン接種は子宮頸部、外陰部、腟の病変を減少させることが推計されました。また、すでに性交渉のある女性に対しても9価ワクチンの恩恵があることが判明し、キャッチアップ接種を支持する結果となりました。9価ワクチンの効果的な実施により、HPVが関連する疾患とその手術等の医療処置の負担が軽減される可能性があります。
HPV ワクチン接種と浸潤性子宮頸がんのリスク低下~スウェーデンからの最新情報~
国レベルの疫学研究でHPVワクチンの浸潤子宮頸がん予防効果を証明
世界の子宮頸がん予防に与えるインパクトは極めて大きいと予想
要旨
- 子宮頸部高度前がん病変の予防に対する 4 価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの有効性(感染減少)と効果(前がん病変減少)は、これまでに示されてきた。しかし、4 価 HPV ワクチン接種と接種後の浸潤子宮頸がんのリスクとの関連を示すデータは不足している。
- スウェーデン全国規模の人口統計と保健に関する登録を用いて、2006~2017 年の間に登録されている約167万人の 10~30 歳の女児・女性を対象とした追跡研究を行った。追跡調査時の年齢、暦年、居住県、親の特性(学歴、世帯所得、母親の出生国、母親の病歴を含む)で調整を行い、HPV ワクチン接種と浸潤性子宮頸がんのリスクとの関連について評価した。
- 研究期間中、子宮頸がん罹患を 31 歳の誕生日まで評価した。子宮頸がんは、1回以上の4 価 HPVワクチンの接種を受けたことのある約53万人(ワクチン接種集団)中の19 人と、ワクチン接種を受けなかった約115万人(ワクチン非接種集団)中の 538 人で診断された。
- 子宮頸がんの累積発生率は、ワクチン接種を受けた女性では 10万人あたり 47 件、受けなかった女性では 10万人あたり 94 件であった。追跡調査時の年齢で補正を行うと、ワクチン接種集団の非接種集団に対する発生率比は 0.51(95%信頼区間 [CI] :0.32~0.82)であった(49%の減少効果)。他の関連が予想される因子でさらに補正を行うと、発生率比は 0.37(95% CI:0.21~0.57)であった(63%の減少効果)。すべての関連因子で補正を行うと、発生率比は、17 歳になる前にワクチン接種を受けた女性で 0.12(95% CI:0.00~0.34)(88%の減少効果)、17~30 歳で受けた女性で 0.47(95% CI:0.27~0.75)(53%の減少効果)という結果になった。
- スウェーデンの 10~30 歳の女児・女性において、4 価 HPV ワクチン接種は、国レベルでの大幅な浸潤性子宮頸がんのリスク減少と関連した。
ポイント
- 4価HPVワクチン接種は、大幅な浸潤性子宮頸がんのリスク減少と関連があることを示した歴史的重要論文である。
- 接種した年齢が若いほど、浸潤性子宮頸がんの発生率の低下は著しい。
- 世界は、確実に子宮頸がん予防のためのHPVワクチン接種率を高める方向に舵をとるであろう。日本では、HPVワクチン接種率低迷が長期化していることが懸念される。
補足
- スウェーデンでは、2006年にHPVワクチンが承認され、4つのHPV型(6、11、16、18型)をカバーする4価HPVワクチンを中心に接種されてきた経緯がある。接種回数は2006年からは3回接種、2015年以降は学校単位プログラムでは2回接種のスケジュールに応じて施行されている。
- 2007年5月には13~17歳の女児に対するHPVワクチンの助成金の支給を開始、2012年には13~18歳の女児・女性を対象に無料のキャッチアップHPVワクチン接種プログラムと、10~12歳の女児を対象とした学校単位でのHPVワクチンプログラムの導入を行った。
- 現在は、23~64歳の女性を対象とした、対策型子宮頸がんスクリーニングプログラムへの参加が勧奨されており、年齢に応じて3~7年ごとに検診受診の勧奨通知が送付されている。
12-13歳で2価HPVワクチン接種を受けた集団の20歳での子宮頸部病変の有病率に関する後ろ向き研究
理想的なHPVワクチン接種を受けた世代で上皮内病変が激減
12-13歳で受けたほうがより効果的であること、集団免疫効果も証明
要旨
- スコットランドでは、2008年からHPVワクチン接種が国のプログラムとして開始された。2012年までのプログラムでは12-13歳の女子に対して2価のHPVワクチンを学校接種とし、2008年から2年間は、年齢(12-13歳)に該当しなかった18歳までの若年女性への補助的な接種(キャッチアップ接種)を行った。
- HPVワクチン政策の変遷によって、生まれた年によりHPVワクチン接種の状況が異なる。1988-90年に生まれた女性は、ワクチン政策が始まる前の集団であるためほとんどの女性がワクチン接種を受けていない。1991-94年に生まれた女性はキャッチアップ政策の対象となった集団であり、ワクチン接種の年齢が15-18歳とワクチン接種前にHPVに暴露している可能性が高い。そして1995-96年に生まれた女性は12-13歳でワクチン接種ができているため、HPV暴露前にワクチン接種(理想的な接種)が行われている可能性が高いと考えられる。
- 理想的なワクチン接種が20歳の子宮頸部病変に与える影響を明らかにすることを目的に、1988年1月1日から1996年6月5日に生まれた女性で、20歳の子宮頸部細胞診の結果がある138692人の女性を対象として調査を行った。各生まれ年ごとの子宮頸部細胞診の結果、細胞異常のため行った組織診の結果をロジスティック解析の手法で検討した。
- 組織診の結果は子宮頸部上皮内腫瘍(以下CIN)のグレード1 (CIN1:軽度異形成に相当)。グレード2 (CIN2:中等度異形成に相当)、グレード3 (CIN3:高度異形成と上皮内癌に相当)とそれ以上の悪性病変(腺系の腫瘍もしくは浸潤がん)として記載。
- 1988年生まれのほとんどHPVワクチン接種を受けていない女性と1995-96年に生まれた90%程度がHPVワクチンを打ったことがある女性で比較すると、CIN3以上の病変発見率は、0.59% (95%信頼区間:0.48-0.71)から0.06% (95%信頼区間:0.04-0.11)へと、89%減少した。CIN2以上の病変で、1.44% (95%信頼区間:1.28-1.63)から0.17% (95%信頼区間:0.12-0.24)へと88%減少。CIN1については、0.69% (95%信頼区間:0.58-0.63)から0.15% (95%信頼区間:0.10-0.21)へと79%減少した。
- 12-13歳でワクチン接種を受けた女性と17歳で接種を受けた女性を比較すると、ワクチンがCIN3以上の病変を減少させる効果は各々86% (95%信頼区間:75-92)と51% (28 – 66)で、12-13歳で受けたほうがより効果的だった。
- 1995-96年生まれの女性ではHPVワクチン接種を受けていない女性でも子宮頸部病変の頻度は1988-90年生まれと比較して減少しており、集団免疫の効果が確認された。
- スコットランドの12-13歳の女子へのHPVワクチン接種プログラムは、子宮頸部の前がん病変を減らすことに寄与していることが明らかとなり、今後、浸潤子宮頸がんを大幅に減らすことが期待される。
オーストラリアにおける子宮頸がん撲滅までの予測期間:モデリング研究
子宮頸がんの年齢調整罹患率は2028年までに撲滅の閾値を下回ると推計
子宮頸がん検診とHPVワクチンなどの子宮頸がん予防プログラムが奏効
要旨
- オーストラリアの子宮頸がん予防は、子宮頸がん検診に関するNCSP(the National Cervical Screening Program)とHPVワクチンに関するNHVP(The Australian National HPV Vaccination Program)の二つのプログラムに則って行われている。
- NCSPは1991年から18~20歳より69歳まで2年ごとの細胞診が施行され、2011~2015年の期間での受診率は80.3%となった。2017年からはHPV検査単独の検診で陽性者に細胞診を行う方法に変更され、25~69歳では5年ごとに検査し70歳以上では過去5年以内にHPV検査が陰性であれば検診を終了する。また検査を受けない女性には自己採取法のHPV検査を奨めている。
- NHVPは2007年から12~13歳の女子に4価ワクチンの3回接種を開始、加えて2009年までは14~26歳までの年代にキャッチアップ接種も行われていた。2013年からは12~13歳の男女ともに定期接種となり、14~15歳の男子が2014年までキャッチアップ接種の対象となった。2016年の15歳の接種率は女子78.6%、男子72.9%であった。さらに2018年からはワクチン接種の方法が9価ワクチンの2回接種へと変更されている。
- 現在のオーストラリアの予防対策が継続した場合に、希少がん(年間罹患率が人口10万人あたり6例未満)の閾値や、さらに低い撲滅の閾値4例未満の基準を達成できるのはいつになるか、動的モデルを用いて推計した。
- 9価ワクチンを接種した世代の将来的ながん検診の方法によって2つシナリオに分けて推計をした。シナリオ1は9価ワクチンを接種した世代にはがん検診を行わない、シナリオ2は9価ワクチンを接種した世代も含めたすべての世代に現在のHPV検査によるがん検診を行うものである。
- 子宮頸がんの年齢調整罹患率は両シナリオとも2020年には希少がんの基準を達成し、2028年にはさらに少ない撲滅の基準である年間罹患数が人口10万人あたり4例未満となると推計された。
- 2066年には子宮頸がんの年齢調整罹患率はシナリオ1では3例/10万人/年を、シナリオ2では1例/10万人/年を下回ると推計された。また、年齢調整死亡率はシナリオ1でさえ2034年に1例/10万人/年を下回ると推計された。
ポイント
- がん検診およびHPVワクチンという2つの子宮頸がん予防の取り組みが現在の高い割合で継続すれば、これからの20年で子宮頸がんは撲滅され、公衆衛生上の問題とみなされなくなると考えられる。しかし、この低い罹患率と死亡率を維持していくためには、この子宮頸がん予防の取り組みを継続していく必要がある。
HPVワクチン接種率急低下に対するアイルランドの迅速な対応
圧力団体の影響で急落した接種率が再び上昇
様々な組織間の連携が急速なワクチン接種率回復に繋がった
- アイルランドでは、12~13歳の女子を対象とした学校接種プログラム(2010年)によりHPVワクチンの高い接種率を達成していた(初期では80%以上、2014-15年では86.9%まで上昇)。
- 2015年に結成された反HPVワクチンの圧力団体は、感情的なストーリーを使って強力な情報発信の場を確立し、政治家への陳情、国や地域のメディア支援を得て誤った情報を流布し、2015年12月には「HPVワクチン、それは安全か」というドキュメンタリーが地上波で放送された。
- その影響で2015-16年にワクチン接種プログラムを遂行した女子は72.3%まで減少し、さらに2016-17年の1回目のワクチン接種率は50%程度まで減少すると推計された。圧力団体の活動は、親のワクチンの安全性に対する不安を喚起させ、ワクチン接種率を低下させた。
- アイルランド国立予防接種局は、反ワクチンの動きに直接対応することなしには親の信頼回復は得られないと考え、推進のためのグループを結成した。さらに、親のワクチンに対する意識に焦点をあてたフォーカスグループも作り、メディアの分析やメディアによる活動を強めた。
- このことは、教育・子供の両親・政治・他の組織の連携を促進し、紙媒体あるいはウェブ上の情報が改訂され、医療者への包括的なトレーニングプログラムも施行された。
- 2017年8月には、健康・女性の権利・児童福祉・市民社会運動の分野でHPVワクチンを広めるための35の様々な組織間での連絡協議会が発足した。2017-18年にはこの連絡協議会が強力に支持するメディアキャンペーンも始まった。
- 現在は幅広いグループがHPVワクチンを推奨しており早くも影響がみられている。公費接種を逃した未接種の女性たちには接種の新たな機会が設けられ、1回目ワクチン接種率は2016-17年では55.8%に、2017-18年では61.7%まで上昇すると推計された。
ポイント
- 日本や日本の影響を受けたデンマークなど、接種率急落を経験した他の国々とは対照的に、各組織を繋ぐ強力な連絡協議会を設立したことが、急速なワクチン接種率回復に繋がった。ワクチン接種率上昇の回復により、アイルランドでは、子宮頸がんによる罹患率や死亡率が将来低下するだろう。(日本の状況との比較はこのHP内(http://kanagawacc.jp/vaccine-jp/123/)の札幌市のデータなどを参照のこと)。
HPVワクチン接種に躊躇はいらない
HPVワクチンの世界的な接種水準は依然として低い。
世界的なHPVワクチン接種率の上昇が望まれる。
要旨
- オーストラリアでは学校の登録や給付金の受理にワクチンの接種を必要とする法令を通して70%以上のHPVワクチン接種率を達成している。また、イギリスでは12~13歳の女子の88%以上がワクチンを接種している。
- アメリカではHPVワクチン接種率は50%未満、地域によっては15%を下回るなど接種率は低い。同様にEUでも地域差は大きく、北欧では接種率は高いものの全体では40%を切っている。日本では副反応に関する検証をされていない報道の影響によりワクチン接種率は約70%から0.6%へと激減した。
- 開発途上国では例外を除きワクチン接種率は低い。インドでは2010年のワクチン接種推奨プログラムが疑念を呼び、社会的な信頼回復に対する挑戦を経験したが、いまだに尾をひいている。中国政府はHPVワクチンの展望について保守的である。
- 一方、高いワクチン接種率を達成している開発途上国もある。ルワンダ政府は、CDC(アメリカ疾病管理予防センター)とHPVワクチンを製造販売しているメーカーと連携することで、小学6年生の女子の93.3%に無償でワクチンを提供することに成功した。ブータンでは、ブータン君主によって推奨された国のワクチン接種プログラムにより若者の90%以上が3回の接種を達成した。このような少額・あるいは無償でのHPVワクチン接種プログラムは、他のさまざまな開発途上国でも導入されつつある。
- 2016年の調査によると、交通・金銭面でワクチンを接種しやすくすることがワクチンを広めるにあたり最も効果的であることがわかった。学校を起点とし低コストあるいは無償でワクチンを提供することで高いワクチン接種率の達成が可能である。
- 情報伝達に関しては、HPVワクチンの適切でわかりやすい情報を提供するだけでは不十分である。HPVワクチンを支持する情報を効果的に発信すること、誤った情報や見解に対する正しい情報を発信することが重要である。
- HPVワクチン接種率を上昇させるにはよく練られた長期的な計画が必要となるだろう。さらにワクチン接種推奨計画をより効果的にするためには、十分な資金、安定した政策、国家的なHPVワクチンの支持、学校でこどもたちへワクチンを届けられるような社会基盤、そしてワクチンの安全性と効果に関わる教育プログラムなどが必要だろう。
ポイント
- 超一流の科学雑誌Cellが、HPVに対する国民の防御の成功と失敗の差が国の健康政策の差として将来浮き彫りになるであろうことを予測し、接種率を高め集団免疫を獲得することの重要さも含めて、グローバルな視点に立った論評を掲載したインパクトは極めて大きい。