2018年1月
HPVワクチン接種はHPVの口腔内感染の予防にも有効か?
アメリカの若者(18~33歳)においてHPVワクチンによる口腔内HPV感染予防効果が示された
将来の中咽頭がん予防効果に期待
要旨
- 近年他の先進国と同様にアメリカでもHPVが原因となる中咽頭がんが男性の間で急激に増加している。本研究ではHPVワクチンが口腔内のHPV感染にどれだけ効果があるか調べた。
- 今回18−33歳の男女2627人においてワクチン接種とHPV感染の有無を調査した。
- その結果18.3%がワクチンの接種を26歳までに1回以上受けていることがわかった。しかしその内訳は女性29.2%、男性6.9%であり男性のHPVワクチン接種率は低かった。
- ワクチン接種済みのグループと未接種のグループでHPV16/18/6/11の感染率はそれぞれ0.11%, 1.61%と大きな差があり、性別、年齢、人種に基づいて調整するとワクチン接種によって、88.2%もHPV感染を減らす効果があることがわかった。
- さらに男性のみで同様のことを調べると、感染率は0%(接種あり)と2.13%(接種なし)で、同様に大きな効果を示すことがわかった。
- しかし現在HPV感染リスクの高い若年男女のワクチン接種率は極めて低く、特に男性ではわずか6.9%にとどまっている。
- ワクチン接種によって、中咽頭がんの原因となるHPVの感染率を減少させることができ、将来的に中咽頭がんを減少させることが期待されるため、早急に接種率を高めていかねばならない。
ポイント
グラフに示した通り、現時点でHPVワクチンを接種している人数はごくわずかであり、接種率が増加することで、口腔へのHPV感染率を劇的に減らすことができる。アメリカは、現在男女の定期接種に9価HPVワクチンも導入しており、将来のHPV関連がん予防に力を入れている。
ワクチン接種はHPVの関連する浸潤がんを予防する
フィンランドの研究で、HPVワクチンを接種した女性ではHPV感染に関連した子宮頸がんや外陰がんなどの浸潤がんは発症していなかった
HPVワクチン接種がHPVの関連する浸潤がんを予防することが明らかに
要旨
- フィンランドで行われたHPVワクチンの臨床試験の参加者の長期的な経過観察により、浸潤がんの発生率を検証した。
- 3つの臨床試験のワクチン接種者と非接種者のその後の浸潤がんの発症率を2007年6月~2015年12月の7年間、フィンランドがん登録を用いて検証した。なお、この3者のうち2002~2005年に行われた2つの臨床試験では、HPVワクチン接種から10年後のフォローアップ時点で、子宮頸部上皮内病変(CIN3:高度異形成と上皮内癌)に対する予防効果が明らかになっている。
- 期間中に観察されたHPVワクチン接種者は65,656観察人年、ワクチン非接種者は124,245観察人年であった。(解説:観察人年とは、ある集団の病気の発症率などを明らかにする場合に、観察期間が異なる場合が多いために用いられる手法である。1人が7年間観察できた場合には7観察人年、1人が5年であれば5観察人年となり、各参加者の観察人年の合計に対して、何人の発症者がいたかを調査し、本研究では発症率を100,000人当たりの人数で示している。)
- HPVに関連した浸潤がんの発症はワクチン接種群では0人であったのに対して、非接種群では、子宮頸がん8人(発症率6.4%/100,000人、以下%のみ記載)、外陰がん1人(0.8%)、口腔咽頭がん1人(0.8%)の計10人(8.0%)の浸潤がんの発生が認められた。ワクチン接種の有無により有意に差が認められた。
- HPVに関連のないがんの発症に差はなく、ワクチン接種群:非接種群で乳がん2人(3.0%):10人(8.0%)、甲状腺がん1人(1.5%):9人(7.2%)、黒色腫3人(4.6%):13人(10.5%)、黒色腫以外の皮膚がん2人(3.0%):3人(2.4%)であった。
- HPVワクチン接種がHPV感染を予防すること、HPV感染ががんの発生にかかわっていることは既知の事項であったが、HPVワクチン接種が浸潤がんを予防することは今回初めて証明することができた。
ポイント
HPVワクチン接種開始より10年以上の年月を経て、ワクチン接種がHPVの関連したがんの発生率を有意に低下させることが明らかになった。
2009-2014年における18-59歳のアメリカ人女性のヒトパピローマウィルス感染率の変化
アメリカの若年女性のHPVワクチン接種率が増え、非接種群のHPV感染率も下がっている
米国における18-26歳の女性の集団免疫の利益が明らかに
要旨
- 2009-2010年と2011-2012年、2013-2014年においてHPVワクチン接種群と非接種群の腟内のHPV感染率の変化を調べた。18歳から59歳女性のHPV感染率を、18-26歳、27-34歳、35-44歳、45-49歳の4年齢層に分類し、ワクチン接種後の時間の経過で検証した。この対象者の種族、婚姻の有無、性的嗜好、飲酒歴、マリファナの使用率など背景に差はみられなかった。
- 感染の有無は、自己採取式のHPV検査を行い、HPVワクチン接種の有無については自己申告とした。このため、思い出しバイアス(思い出しの正確さの差異によって生じる測定の不確かさ)が存在している可能性がある。
- 2009-2010年は、2290人の参加対象の中で2244人(98%)が参加し、1970人(87.8%)が自己採取式のHPV検査を行い、1955人(85.4%)がHPV型判定に適正の結果が得られた。2011-2012年は2062人が対象で、1995人(96.7%)が参加し、1772人(85.9%)がHPV検査を行い、1767人(88.6%)が適正であった。2013-2014年は2230人が対象で、2164人(97%)が参加し、1995人(92.2%)が検査を行い、1985人(91.7%)が適正であった。総計5707人がHPV検査を受けたこととなる。
- 18-59歳の2013-2014年の罹患率は、2009-2010年に比して明らかに減少していた。この低下傾向は18-26歳の年齢層が最も顕著であった。18-26歳のワクチン接種者ではワクチンがカバーする型であるHPV6型、11型、16型、18型の罹患率は、2009-2010年の3.9%から、2013-2014年の2.0%と低下していた。18-26歳のワクチン非接種者でも、2009-2010年の19.5%から2013-2014年の9.7%へと顕著な減少を示した。26歳以上の非接種者の年齢層では、HPV罹患率は顕著な変化はみられなかった。
- アメリカの18-26歳女性のHPV非接種者におけるHPV感染率の低下は、HPVワクチンの集団免疫効果の利益を得ていると考えられる。
ポイント
アメリカの経年的なHPV感染率の変化を追った疫学調査で、オーストラリア(2017.9.12の最新学術情報記事参照)に引き続き、HPVワクチン接種率が高い若年層ではワクチン接種群も非接種群もHPV感染率が下がり、集団免疫効果が得られていることが証明された。
9価HPVワクチンの有効性と安全性:ランダム化2重盲検試験
9価ヒトパピローマウイルスワクチンが子宮頸がんの90%を予防する
6年の持続的効果とその安全性を証明
要旨
- 2007年9月~2009年12月の間に様々な地域から無作為に集めた16-26歳の健康な若年女性14215人に9価HPVワクチンと4価HPVワクチンを無作為に約半分ずつのグループに分けて接種した。
- 9価ワクチン接種グループでは、これまでのワクチンには含まれていなかったHPV 31, 33, 45, 52, 58に関連する子宮頸部中等度ないし高度異形成(CIN2, 3)や上皮内腺癌や子宮頸癌のリスクが、4価接種グループに比べ97%減少した。
- 同様にHPV 31, 33, 45, 52, 58に関連する子宮頸部細胞診異常についても4価ワクチンを接種したグループに比べ約95%リスクを減らすことができた。
- 9価ワクチン接種グループでは、HPV 31, 33, 45, 52, 58型の6か月ないし12か月間の持続感染リスクも96%減らすことができた。
- HPV 6, 11, 16, 18型によって引き起こされる子宮頸部病変(中等度ないし高度異形成、上皮内腺癌、子宮頸癌)の罹患リスク、細胞診異常のリスク、12か月間のHPV持続感染リスクはいずれも4価と比較し遜色ない効果が得られた。
- 因果関係を問わない重篤な有害事象は全部で7例あり、4例は9価ワクチン、3例は4価ワクチンの接種者で,どちらかのワクチンに偏りのある差はなかった。そのうち3人はワクチン接種から3年以上が経過した例であった。死亡例でワクチンとの因果関係が疑われるものはいなかった.
ポイント
9価ワクチンの効果は6年間持続することが証明された。9価ワクチンが普及すれば世界中の90%の子宮頸がんを予防できる可能性がある。
付記:
- 9価ワクチンは9種類のHPV(6, 11, 16, 18, 31, 33, 45, 52, 58型)抗原を含む
- 4価ワクチンは4種類のHPV(6, 11, 16, 18)抗原を含む。
本論文Table1を改変
ヒトパピローマウイルスによって引き起こされるがんを防ぐための取り組み
2017 Lasker-DeBakey 臨床医学研究賞受賞
HPV関連がんの征圧の実現へ
- ヒトパピローマウイルス(HPV)は20世紀初頭から性感染症の原因としてその存在を知られていたが、1980年代になってからHPVの中でもHPV-16,HPV-18が子宮頸がんと関連することが明らかになった。HPV関連がんのうち発展途上国では90%を子宮頸がんが占めており、死亡者は2015年の206,000人から2030年には317,000人に増加すると予測されている。
- HPVワクチンは、HPVに似た外殻を持つ合成タンパクにより中和抗体を誘導する、HPV感染予防のための不可化ワクチンである。著者らを初めとした多くの研究者の努力により、高い抗体価を長期間維持できる有効なワクチンが開発された。
- 2002年には、HPV16型をターゲットにしたワクチンを接種した768人とプラセボ群(構造が似ているもののHPVに対する抗体誘導能力を持たない薬剤)の765人で比較し、実際にHPV16型に感染した人数はそれぞれ0.41人という結果で、HPVワクチンは劇的な効果があることが明らかになった。その後、さらに複数のHPVをターゲットにした2価ないし4価ワクチンの有効性も同様に示されてきた。そして、第二世代の9価ワクチンも実用化されている。
- 当初ワクチン接種は3回に分けて行われていたが、現在ワクチンの接種回数を減らすための研究が進んでおり、2回の接種でも3回と同様の効果を示すことが明らかになった。将来的には一度のワクチン接種でもHPV感染が予防できるようになることが期待されている。
ポイント
- Lasker-DeBakey 臨床医学研究賞は、医学研究において優れた功績があった人物に与えられるアメリカ医学界最高の賞とされており「アメリカのノーベル生理学・医学賞」とも呼ばれている。
- 本賞受賞者らによる技術によるHPVワクチンは、1,2,3回いずれのワクチン接種回数においても長期の効果を期待できることが明らかになってきた。HPV関連がんの撲滅に向かっての長期のゴール達成が現実味を帯びてきたが、接種率の問題は世界レベルで残っているといえる。
子宮頸がん予防先進国オーストラリアの情報
オーストラリアのHPVワクチンプログラムのインパクト
高いHPVワクチン接種率は先進国における子宮頸がん検診システムを変えていく可能性がある
- オーストラリアでは、2007年4月より開始したHPVワクチンプログラムの成功により、当時12~17歳でワクチン接種を受けた女性の3回接種率が約70%と高率である。
- その効果を調べるために、プログラム開始前の2005年~2007年と開始後の2010年~2012年に、オーストラリア都市部で子宮頸がん検診を受けた18歳~24歳女性において、ワクチンで感染予防効果が期待できるHPV6・11型(生殖器まわりの粘膜に良性のイボをきたすHPV)と16・18型(子宮頸がん60~70%の原因のHPV)の感染率の比較を行った。結果として、ワクチン導入前の感染率に比べて、全体で78%、3回接種者では93%も減少していた(図参照)。
- 一方、ワクチンを接種しなかった女性でもプログラム開始後では開始前と比較して35%の減少効果が認められた(集団免疫効果)。
- さらに、人に免疫を作らせるためのウイルスタンパク質がHPV16・18型に似ている発がん性HPV31・33・45型の感染率が、3回ワクチン接種をした女性では6%に対して、接種していない女性では15%と2倍以上であった(クロスプロテクション効果の可能性)。
ポイント
- 出典1は、世界で初めてオーストラリアでHPVワクチンによる集団免疫効果が証明された論文である。集団免疫効果は、ワクチンを接種しなかった人も国のワクチンプログラムの恩恵を受けていることの証明となる、重要な指標である。
- HPVワクチン効果の強いインパクトが判明した結果、オーストラリアでは2017年より、国の子宮頸がん検診プロラムを、従来の開始年齢18歳から25歳に引き上げるとともに、従来の細胞診の検査から発がん性のHPVテストで陽性者に細胞診を行う方針へと大きく転換した(出典2)。
- 今後、HPVワクチンプログラムが成功している先進国では、オーストラリアと同様に検診体制をHPV検査スクリーニング陽性者に細胞診を行う方法に変える動きが加速する可能性がある。