2017年9月
世界はHPVワクチンの安全性を受け入れなければならない
HPVワクチンについての不信感の背景は?
政治と科学の関係性がHPVワクチンの政策に影響している?
要旨
- 毎年、HPV関連の子宮頸がんが世界で約50万件発生し、約25万人が亡くなっている。私たちはとても効果の高いHPVワクチンを手にしながら、多くの国でその使用について不信感が生じている。
- デンマークでは、ワクチン接種後に生じた倦怠感、易疲労感、痛みなどの症状が、ワクチンが原因ではないかとの疑問が生じ、ただちにEMA(欧州医薬品庁)により再調査が行われた。EMAの報告は、ワクチンは安全でありワクチン接種の方針を必要はないと結論付けた多くの報告のうちのひとつとなった。調査結果はHPVワクチン接種後の反応を、“心因性の疾患”ではないかと提唱している。心理的反応は、特に学校などで集団接種を受ける場合などで、他の接種者の反応を目の当たりにしたときに急速に拡大しやすいものである。また、YouTubeに投稿された症状の動画が次第に増えていったことも、不安を煽ることとなった。
- 政治と科学の関係性が政策に影響している。日本やインドではワクチン接種後の諸症状とワクチンの関連が明確でないことを明言していないためにワクチン接種が滞っている。コロンビアやイングランドでは科学的に症状と接種の関連性がないと表明したことを受けて、接種は続けられている。
- 心因反応はHPVワクチンに特有のものではない。2009年のインフルエンザの大流行の時のワクチン接種では台湾で心因反応の報告が23例あった。イランでは破傷風ワクチンのあとに26人の女子クラスのうち10人が心因反応を呈してパニックが起こった。
- 後日イランでの麻疹ワクチンのキャンペーンで、事前準備として地域の情報を収集してコミュニケーションのための資料に盛り込み、対象となる若い世代、学校関係者、地域の指導者やメディアなど幅広く共同作業を行うことで成功した。
- HPVワクチンは性感染としてのHPV感染を予防するという独特な問題を抱えている。HPVワクチンの受け入れには文化的、政治的に異なる戦略が必要である。難題ではあるが、世界中で8000万人以上の女児と女性が予防接種を受けている。
- ワクチンの副反応や不信感が社会に広まること、ソーシャルメディアを通じてそれが誇張されてしまうこと、政治プロセスが脆弱なことによって、人々が世論と科学的意見のはざまでどうしてよいかわからなくなり進歩が妨げられてしまう可能性を軽んじてはならない。
ポイント
日本では科学的にワクチン接種との因果関係は不明であるものの、政府が世論に合わせてワクチン接種の積極的勧奨をやめ接種を個人の判断とした。結果、社会的にワクチンへの不信感が拭いきれず、ワクチン接種率がほとんどゼロになってしまっている。