2022.7.3
HPVワクチン
がんサバイバーのメッセージビデオのHPVワクチン接種への意識変容効果を検証したランダム化比較試験
Suzuki Y, Sukegawa A, Ueda Y, Sekine M, Enomoto T, Melamed A, Wright J, Miyagi E The Effect of a Web-Based Cervical Cancer Survivor’s Story on Parents’ Behavior and Willingness to Consider Human Papillomavirus Vaccination for Daughters: Randomized Controlled Trial JMIR Public Health Surveill 2022;8(5):e34715 URL: https://publichealth.jmir.org/2022/5/e34715 DOI: 10.2196/34715
4分間の子宮頸がんサバイバーの体験談ビデオは、視聴直後にHPVワクチン接種対象世代の娘を持つ親世代のHPVワクチン接種意思を約1.4倍高めた。
特に父親において接種意思向上効果が顕著で娘へのHPVワクチン接種意思を約1.5倍高めた。
本研究に使用した動画は、下記のサイトからどなたでもご覧いただけます
VIDEO
要旨
【背景】
HPVワクチン接種の積極的接種勧奨の中断(定期接種の対象からは外れていないが国や各自治体が積極的に奨めない状態。)により、日本では2013年春以降、子供たちへのHPVワクチン接種率が急激に低下し、将来の子宮頸がんやその他の関連がん(中咽頭がんや肛門がんなど)罹患リスクへの懸念が示されている。
ワクチン忌避の問題は、日本だけでなく世界的にも課題となっておりどのような手段が本当に有効なのかはわかっていない。
横浜市立大学産婦人科の研究グループでは、新潟大学産婦人科、大阪大学産婦人科の研究グループと協力し、有効な啓発手法の検証を行ってきた。
今回、子宮頸がんを実際に経験し、大きな手術や後遺症を乗り越えたがんサバイバーの松田陽子さんのビデオを見せることで、研究参加者に意識や行動の変容効果がどれだけみられるかを検証した。
【方法】
NTTデータ経営研究所の協力のもと、オンラインでのランダム化比較試験を行った。11~18歳(小学6年生~高校3年生)までの娘を持つ親世代を対象とし、NTTデータ経営研究所のアンケートモニター(人間情報DB)を使用した。
調査期間は第1回、2020年3月19-30日、第2回(3か月後フォローアップ調査)2020年6月26日-7月6日。
松田陽子さんの約4分の子宮けいがん体験談をビデオにし、参加者にランダムに50%の割合で視聴してもらった。
【結果】
2175名が本試験に参加した。男性(父親)1266名(58.2%)、女性(母親)909名(41.8%)。
ビデオを見た直後では、ビデオを見ていない群に比べて、ビデオ視聴群の方が約1.4倍、娘のHPVワクチン接種への意思が高かった。また具体的に接種予約を取ろうと答えた方はビデオ視聴群で約1.5倍高かった。
このビデオの効果は興味深いことに、父親でのみ認められ、母親では効果の有意な差は認められなかった。
3か月後のフォローアップでは、参加者の8.2%が既に接種を開始もしくは予約済みと回答したが、ビデオ視聴による効果は認められなかった。日本での接種データはなく、この接種済み、予約済みの参加者を除くと、HPVワクチンへの意思についてもビデオ視聴による効果は認められなかった。
【結論】
子宮頸がんサバイバーの体験談ビデオは、視聴直後に接種対象世代の娘を持つ親世代のHPVワクチン接種意思を高めた。しかしながら、3か月後まで意識変容は続かなかった。
本試験参加に伴い、8.2%の親が娘へのHPVワクチン接種を具体的に開始した。
【用語解説】
95% CI:95%信頼区間。リスク比は95%の確率でこの範囲におさまることを意味する。例えば下限が1以上の場合は、95%の確率でこの事象が起こりやすいことが示され、ビデオによる効果があったと解釈できる。一方、信頼区間が1をまたぐ場合には、効果があったとは解釈できない。
リスク比:今回の場合はビデオを見た場合に期待される効果の大きさを表す値。例えば、「娘へのHPVワクチン接種意思」はビデオを見せることにより、リスク比1.41という結果であるが、さらにここでは95%信頼区間も1以上(図で横のエラーバーが1をまたいでいない)であり、『ビデオを見ることで1.41倍、娘へのHPVワクチン接種意思が高まった』と解釈する。