- 2021.7.8
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子宮頸がん予防情報
日本における妊娠中の子宮頸部細胞診の現状
Suzuki S, Hayata E, Hoshi S-i, Sekizawa A, Sagara Y, Tanaka M, Kinoshita K, Kitamura T, Current status of cervical cytology during pregnancy in Japan. PLOS ONE. 2021 Jan 3; 16(1). Doi: 10.1371/journal.pone.0245282
10代の妊娠女性の子宮頸部細胞診異常とハイリスク型HPV感染の頻度は高い
適切な検体の採取器具や細胞診の方法の検討
要旨
- 子宮頸がん検診は、特に若い女性においては十分に実施されていない。厚生労働省が実施した国民生活基礎調査によると、日本の無症候性女性における子宮頸がん検診の受診率は約40%と低く、公費助成が行われているにもかかわらず、受診率が低いのが現状である。
- 本研究では、日本における妊娠中の子宮頸部細胞診の検診結果の現状と、適切な検体の採取器具や細胞診の方法について調査した。
- 子宮頸がん検診では、子宮頸部の表層細胞を採取して悪性化した異型細胞を検出する。採取する器具はヘラ/ブラシまたは綿棒が用いられる。細胞診の方法は、採取器具ごと保存液の入った容器の中で洗浄して細胞を回収しスライドガラスに塗布する液状検体法(LBC)と、採取した細胞を直接スライドガラスに塗抹する従来法(パップテスト)がある。
- 採取の際、妊娠していない女性にはヘラ/ブラシの使用が強く推奨されているが、妊娠中の女性は子宮頸部が脆弱で出血しやすいため、綿棒を使用することが認められている。また、細胞診の方法により、妊娠中の悪性細胞診の偽陽性率に影響を与えることが示唆されている。
- 2018年10月~2019年3月に出産した女性の子宮頸部細胞診の情報提供を2,293の産科施設に依頼した。1,292施設から回答があり、合計238,743人の女性について有効な情報が得られた。
- 有効な情報を回答した1,262施設のうち、810施設(64.2%)が綿棒を使用していた。また、842施設(66.7%)が従来法を行っていた。
- 日本における、妊娠女性の公費での子宮頸部細胞診の実施率は86.8%であり、年齢層による実施率の有意差はなかった。子宮頸部細胞診異常の頻度は全体で3.3%であった。細胞診異常のうち意義不明な異型扁平上皮(ASC-US、ごくわずかな異常)は59.1%、LSIL(軽度の前がん病変が疑われる異常)は25.4%で見られた。年齢別で見ると、10代におけるASC-USおよびLSILの頻度は、他の年齢層に比べて有意に高かった。(グラフ参照)
- ASC-USを有する妊娠女性のHPV検査の実施率は65.3%で、HPV検査を実施した女性のうちハイリスク型HPVの感染率は50.4%であった。年齢別に見ると、10代のASC-USを有する妊娠女性のハイリスク型HPV感染率は、他の年齢の女性よりも有意に高かった。(グラフ参照)
- 日本で行われた先行研究では、女性のHPV感染率は、15~19歳は44%、20~24歳は29%、25~29歳は20%、30歳以上は7%であり、若い女性はHPV感染率が高い傾向にあった。本研究において10代でASC-USと診断された患者のHPV検査の普及率が比較的低い(約50%)ことを考慮すると、10代でのHPVワクチンの接種を再度推奨する必要があるだろう。また、日本のほとんどの地域では、20歳以上の女性に子宮頸がん検診が助成されているが、HPVワクチンの接種を見送った10代の女性には、より頻繁で定期的な子宮頸がん検診が必要となるだろう。
- 本研究では、採取器具や細胞診の方法によって、子宮頸部細胞診異常の頻度に有意な差が見られた。妊娠女性の子宮頸部細胞診異常の頻度は、全体で3.3%だが、ヘラ/ブラシを用いたLBCの場合4.9%だった。採取方法にかかわらず、LBCによる異常細胞診の検出率は、従来法の検出率よりも高かった。また、従来法の場合、ヘラ/ブラシを用いた細胞診異常の検出率は、綿棒を用いた場合よりも高かった。本研究では採取の条件が統一されていないため、妊娠中の子宮頸がん検診の精度を高めるためには、これらの条件を統一したさらなる研究が必要だろう。
ポイント
- 妊娠女性の子宮頸部細胞診異常の頻度は全体で3.3%であり、細胞診異常のうちASC-USは59.1%、軽度前がん病変(LSIL)は25.4%で見られた。ASC-USを有する10代の女性のハイリスク型HPV陽性率は、他の年齢の女性よりも有意に高かった。
- 妊娠女性の子宮頸部細胞診異常の頻度は、採取器具や細胞診の方法によって有意な差が見られた。
著者の鈴木俊治先生からのコメント
日本産婦人科医会(以下、医会)常務理事の鈴木俊治です。医会では、性の健康医学財団と協働で、毎年妊娠中に診断された性感染症の実態調査を行っております。2019年は、HPV感染と関連して、妊娠中に実施される頸部細胞診結果についてのアンケート調査を実施しました。「妊婦の実態=女性全体の実態」ではないですが、他の性感染症の調査結果と同様、若年者の感染率が高いことが判明しました。改めて、若年女性に対する性教育、そしてHPVワクチン接種の関する情報提供の必要性が再認識されました。