- 2021.5.22
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子宮頸がん予防情報
日本人女性におけるHPV感染と子宮頸部高度異形成病変のリスクファクター
Yamaguchi M, Sekine M, Hanley SJB, Kudo R, Hara M, Adachi S, Ueda Y, Miyagi E, Enomoto T. Risk factors for HPV infection and high-grade cervical disease in sexually active Japanese women. Sci Rep. 2021 Feb 3;11(1):2898. doi: 10.1038/s41598-021-82354-6.
性行動(初交年齢、性的パートナーの数)、HPV感染、子宮頸部高度扁平上皮内病変(CIN2+)の相関関係を調査。
性行動にかかわらず、HPV16/18に感染していることが、日本の若年女性のCIN2+の最も重要な危険因子である。
要旨
- 子宮頸がんのほとんどが、性行為によって感染するハイリスク型ヒトパピローマウイルス(hrHPV)の持続的な感染によって引き起こされる。ワクチンでHPV感染の予防が可能で、早期に診断・治療すれば治癒可能ながんである。
- 日本では、年間10,000人以上が子宮頸がんに罹患し、2,700人以上が亡くなっており、子宮頸がんや前がん病変であるCINの発生率は、生殖年齢の女性で増加している。20歳以上の女性には、2年に一度の検診が推奨されているが、受診率はOECD諸国の中でも低い。(20~69歳の女性で42.4%)
- 日本では、2009年に2価のHPVワクチン、2011年に4価のHPVワクチンが承認され、2013年4月から定期接種となったが、ワクチンの有害事象についてメディアで根拠なくセンセーショナルに報道されたことで、厚生労働省が2013年6月にHPVワクチンの積極的な勧奨を中止した。1994~1999年生まれでは70%以上の接種率だったが、積極的勧奨中止後、接種率は劇的に低下し、2000年生まれ以降では、1%未満となっている。
- 本研究では、子宮頸がんの真の要因を明らかにするため、生殖年齢に達した日本人女性を対象に、性行動(初交年齢、性的パートナーの数)、HPV感染、 CIN2+の相関関係を調査した。(CIN2+とは、子宮頸がんの前がん病変であるCINの中でも、がんへの進展率の高いCIN2以上を表す。)
- 2014年4月から2016年3月にかけて、新潟市で公費による子宮頸がん検診を受診した3968人の女性が本研究に登録され、さらに、過去に性交渉の経験のない人やその他結果等に不備のある人が省かれ、最終的な分析では、3231人の女性が対象となった。各年齢層の参加者数は、A群(20-30歳)が2179人、B群(35-36歳)が725人、C群(40-41歳)が327人となった。
- 登録者(新潟市のがん検診を受診した一般集団)の初交年齢の平均は18.4歳で、初交年齢が14歳以下であったのは全体の3.4%であったが、そこから急増し、70%以上が10代での初交を経験したと回答した。性的パートナーの数は2~5人が全体の半分以上を占め、6~9人、10人以上と回答した者も合計で全体の3割を占めた。
- hrHPV の感染率は、初交年齢が20歳以上、17~19歳、15~16歳の女性でそれぞれ7.4%、12.2%、16.4%と徐々に増加し、14歳以下でピークに達した(26.6%)。
- 性的パートナーの数はHPV感染の有意な危険因子であった。hrHPV全体の感染率は、性的パートナーの数が1人、2~5人、6~9人の女性で、それぞれ3.6%、9.0%、20.2%と徐々に増加し、10人以上の女性でピークに達した(25.1%)。また、HPV16/18感染率ついても同様の傾向が見られた(p <0.01)。
- 一方で、CIN2+の最大の危険因子は、HPV16/18感染であった。HPV 16/18感染は、性行動、年齢、喫煙歴を調整しても、CIN2+の発生リスクを113.7倍に増加させる。つまり、性行動にかかわらず、HPV16/18への感染が、日本の若年女性のCIN2+の最も重要な危険因子である。
- HPV16/18感染は、HPVワクチンで予防することができることから、HPVワクチンの積極的な推奨の再開が望まれる。
ポイント
- 性行動にかかわらず、HPV16/18への感染が、日本の若年女性のCIN2+の最も重要な危険因子であることがわかった。
- そのため、初交前にHPVワクチンを接種すれば、HPV16/18感染、およびCIN2+の発生リスクを軽減することができる。
本研究の問題点
- 日本の一地域でしか実施されていないため、本研究の結果は日本全体の人口を反映していない可能性がある。しかし、初交の年齢に関しては、本研究の結果は、日本の全47都道府県で実施された性行動に関する最近の日本のインターネット調査と類似していた。
- HPVワクチンの接種を受けた女性の数が少ないため、多変量解析においてワクチン接種の有無を検討できなかった。
- 30代と40代の女性の参加者数が少なかった。
- 女性のHPV感染と子宮頸部疾患の重要なリスク要因でもある男性の性行動に関する情報がなかった。
論文著者 山口真奈子先生からのコメント
本研究は、日本人女性の性的活動性の実態とHPV感染・子宮頸部病変の関りを調べた貴重なデータです。子宮頸がんの患者さんを苦しめる大きな問題点の一つに「子宮頸がん=性に奔放」という世間からの偏見があります。HPVは性行為を介して感染するため、パートナーの数の増加はHPV感染リスクを増加させることは事実です。しかしながら、本研究では子宮頸部高度異形成病変(CIN2+)の最大のリスクは性行動にかかわらずHPV16/18型感染であることが実証されました。これは、たとえパートナーが1人であったとしても、HPV16/18型に感染してしまうとCIN2+を罹患するリスクが113.7倍になることを意味しています。HPV16/18型を予防するワクチンは12-16歳の女子であれば無料で接種することができます。本研究では、現代の日本人女性の多くが10代で初交を経験し、生涯において複数人の性的パートナーを持つことはごく普通のことであることもわかりました。思春期の子供たちに対する正しいがん予防教育、性教育の充実と、初交前のワクチン接種の普及が日本の子宮頸がん予防にとって重要であると考えます。