- 2020.4.16
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子宮頸がん予防情報
日本での子宮頸部高度扁平上皮内病変以上(HSIL+)に対するHPVワクチン接種の効果
Konno R, Konishi H, Sauvaget C, Ohashi Y, Kakizoe T. Effectiveness of HPV vaccination against high grade cervical lesions in Japan. Vaccine 2018; 36: 7913-7915.
ワクチン接種を受けた女性は子宮頸部高度扁平上皮内病変が減少
HPVワクチンの効果が検診後の病理生検で科学的に証明された
(訳注:子宮頸部高度扁平上皮内病変HSILという用語は従来、細胞診(ベセスダ分類)に用いられてきたが、2014年WHO病理分類以降、病理診断にも用いられている)
要旨
- HPVワクチン接種の効果を明らかにするために、日本対がん協会の子宮頸がん検診のデータを使用して、HPVワクチン接種の有無と検診で発見された子宮頸部高度扁平上皮内病変(従来の分類法でのCIN2およびCIN3、さらに以前の分類法での中等度異形成、高度異形成、上皮内癌に該当。WHO 2014年分類でのHigh-grade squamous intraepithelial lesion, HSIL)およびそれ以上(本論文では、HSIL+と表記)の発生率を検討している。
- 日本では2010年から「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」の一環として地方自治体が主体となってHPVワクチン接種を開始し、2013年4月からは予防接種法に基づいて定期接種が施行されて現在も続いている。しかし、2013年6月14日以降は、厚生労働省は積極的な接種勧奨を停止し、現在は接種率が1%未満となっている。
- 日本の子宮頸がん検診は対象年齢を20歳以上としており、2年に1回(自治体によっては1年ごと)行われている。しかし、他の先進国のように、国民すべてを統一したがん検診登録制度(レジストリ)やワクチン接種登録制度はなく、相互のデータリンクもされていない。
- 日本対がん協会は全国47都道府県に46支部を置き、自治体からのがん検診を担っている。子宮頸がん検診の際に、HPVワクチン接種歴を問診した16支部から、ワクチン接種の有無と検診結果を収集した。細胞診異常だった場合には、コルポスコピーのもとで生検が行われた。生検病理診断の子宮頸部高度扁平上皮内病変以上(HSIL+)の発生リスクをワクチン接種有無別に解析した。
- 「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」の接種対象は当時16歳(1994年生れ)であったが、2014年度に検診対象年齢(20または21歳、自治体、誕生月によって異なる)に至った。
- 2015年度 20~29歳検診受診者22,743人の結果が収集され、このうち1,969人(8.7%)がHPVワクチン接種を受けていた。年齢ごとの接種率は20歳24.8%、21歳38.9%、22歳9.5%、23歳7.6%、24歳4.3%、25歳2.3%、26歳2.7%、27歳3.0%、28歳2.5%、29歳2.6%となっていた。20~21歳女性は上記の事業対象で、23歳以上の女性は対象外であったので接種率に差がある。
- 病理生検がHSIL+だったのは、HPVワクチン接種歴のある1,969人のうち4人(0.20%)で、ワクチン接種歴のない20,774人のうちの138人(0.66%)であった。接種者ではHSIL+の発生リスクが69%減少していた。ワクチンの効果には年齢による統計学的な差は認められなかった。図1は20~24歳と25~29歳の年齢層に分けてワクチン接種の有無とHSIL+の発生率をグラフにしたものである。本来、HSIL+や子宮頸がんは、25歳以降に多く発生するが、年齢による差が出なかった(すなわち、ワクチン接種が効果的だった)理由として検診受診率が低いこと、20歳代のHSIL+にはHPV16型、18型の比率が高いことが挙げられる。
- 日本では公衆衛生学的な情報の体系的な把握、例えば個人のがん検診結果やHPVワクチン接種歴などをリンクさせる国内で統一されたデータベースのレジストリがないため、疫学調査をすることが大変困難である。そのような環境の中、本研究はこれまでで最大の22,743人の一般的な検診受診者(population-based)データを用いて、臨床試験(治験)ではないリアルワールドでのHPVワクチンの効果を解析した。
- 日本でたくさんの若い女性が子宮頸がんで亡くなる前に、日本政府はHPVワクチンプログラム推進を前向きに検討すべきであり、この研究が科学的根拠になると考える。
ポイント
- 実際の現場での検診受診者を対象に、HPVワクチン接種が子宮頸がんの直接の前駆病変であるHSIL+発生を低下させたことを証明した。