- 2020.4.10
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子宮頸がん予防情報
日本のおけるHPVワクチン接種率低下の危機がもたらす将来への影響をいくつかのモデルで予測した研究
Simms KT, Hanley SJB, Smith MA, Keane A, Canfell K. Impact of HPV vaccine hesitancy on cervical cancer in Japan: a modelling study. Lancet Public Health 2020; 5(4):e223-e234. doi: 10.1016/S2468-2667(20)30010-4.
HPVワクチン接種率が回復しなければ、日本における子宮頸がん予防に関する将来への影響は甚大だ
これまでのHPVワクチン接種率低下により将来約5000人の女性が子宮頸がんによって命を落とすと予測される
要旨
- 日本では2010年より12-16歳の女児に対するHPVワクチン接種が開始され、70%を超える接種率を達成していたが、政府による積極的接種勧奨の中止により、現在では接種率は1%を下回っている。
- このワクチン接種控えによる危機が、子宮頸がんの罹患率や死亡率に対してどのような不利益を生んでいるか、また接種率の改善によって将来の子宮頸がんの罹患率や死亡率がどれだけ改善するか、予測モデルを用いて算出した。
- 「Policy1-Cervix」というモデル解析のプラットフォームを用いて、日本のHPV感染率、子宮頸がんスクリーニング、子宮頸がん罹患率や死亡率などについてモデルに適合させて将来予測を行った。このモデルはオーストラリア、ニュージーランド、イギリス、中国などで既に実績のあるツールである。オーストリアの研究は2018年11月6日発信の最新学術情報で報告している。
- HPVワクチンによって接種率が極端に低い状況が土台となる1994年から2007年生まれの集団における生涯の子宮頸がん罹患や死亡数について予測した。
- さらに定期接種が70%にまで回復し、キャッチアップ接種(2020年に13歳から20歳となる、接種率が低下していた時期に定期接種を逃してしまった世代に対する後追い接種)も50%を達成した場合の2020年以後の回復シナリオについても予測した。
- 2013年から2019年まで続くこのワクチン接種控えによる危機によって、1994年生まれから2007年生まれの世代の生涯における子宮頸がんリスクとして、仮に70%の接種率が達成し続けられた場合に比べて、24,600~27,300人の罹患と5,000から5,700人の死亡者が増えると予測される。(表:(2)のシナリオを(7)と比較した場合、水色の色かけ部分)
- しかし、2020年から接種率が元通りになり、接種を逸してしまった世代に対してもキャッチアップ接種が行われた場合は、14,800~16,200人の罹患と3,000~3,400人の死亡を防ぐことができる。(表:(5)のシナリオを(2)と比較した場合、オレンジ色の色かけ部分)
- もし2020年に接種率が戻らなければ、2020年に12歳になる世代ではさらに3,400~3,800人の罹患と700~800人の死亡リスクを抱えることになる。
- もしこのままワクチン接種控えによる危機が続けば、接種控え以前の高い接種率が継続された場合に比べて、今後50年で9,300~10,800人の防ぎ得る死亡数を許すこととなってしまう(図)。
- HPVワクチン接種を控えることによる影響は5,000人程度の女性が子宮頸がんで命を起こすことに相当すると推測された。速やかなHPVワクチン接種の回復とキャッチアップ接種によって、このうちの多くの死を予防することができるであろう
ポイント
迅速な接種率の回復とキャッチアップ接種が重要であることがはっきり分かる。
表 1994年~2007年生まれの子宮頸がん罹患と死亡の生涯リスクのモデル予測