2021年6月
積極的勧奨の一時差し控え状況下でのHPVワクチン再普及のための戦略
地方自治体による情報提供の有効性を日本で初めて検証
地方自治体から子宮頸がんやHPVワクチンに関する情報を提供することでワクチン接種率は増加する
要旨
- HPVワクチンの有効性と安全性は世界的に証明されているが、日本では,ワクチン接種による有害事象について繰り返し報道され、厚生労働省は2013年6月にHPVワクチンの積極的推奨を一時的に差し控えた。推奨差し控え後に接種対象年齢に達した日本の2000年度生まれ以降の女子は、無料で接種できるにも関わらず、ワクチン接種率が低下しており、2000年度生まれ、2001年度生まれ、2002年度生まれ、2003年度生まれの女子の累積接種率は、それぞれ14.3%、1.6%、0.4%、0.2%と報告されている。
- いすみ市では2019年7月29日より、2003年度に生まれた女子(高校1年生相当)139人を対象に、子宮頸がんやHPVワクチンに関する情報を記載したリーフレットの送付を開始した。2003年度生まれの女子がHPVワクチンを無料接種できるのは、2019年度が最後だった。本研究では、いすみ市のリーフレット送付前後のHPVワクチン接種率を比較するために分析を行った。
- いすみ市では、国が積極的にワクチンを推奨していた1994年度〜1999年度生まれの対象女児の累積接種率(3回のうち1回目)は58.60%から94.67%へと大幅に上昇した。しかし、政府が推奨を差し控えた2013年以降、いすみ市の接種率は急激に低下し、2019年度始めまでに2001年度、2002年度生まれの女児は1人も接種を受けていなかった。
- リーフレットの送付前にワクチンを接種していた2003年度生まれの女子は2人だけだった。リーフレットを受け取った後、12人の女子が接種を受け、累積接種率は、1.44%(2/139人)から10.07%(14/139人)へと有意に上昇した(p=0.003)。これは、リーフレットを送付していない2002年度生まれの女子の接種率(0.00%)と比較しても、有意に高かった(p<0.001)。
- 一方、同じくHPVワクチンの対象年齢で、リーフレットの送付を行っていない2004年度~2007年度生まれの女子(小学校6年生~中学3年生)489人のうち、2019年までにワクチンを接種していたのは6人だけだった。2004年度~2007年度生まれの女子の接種率1.23%(6/489人)は、リーフレットの送付を行った2003年度生まれの女子のワクチン接種率10.07%(14/139人)よりも有意に低く(p<0.001),また,2002年度生まれの女子の接種率0.00%(0/148人)とは有意な差が見られなかった(p=0.34)。
- さらに、2019年には、リーフレットの送付対象でなかった2004年度~2007年度生まれの女子は4~7月は3人、8~12月に3人がHPVワクチンを接種していた。累積接種率は年間を通じて(リーフレット送付のタイミングの前後で)有意に上昇しなかった(3/489→6/489、p=0.51)。したがって、母親の娘へのワクチン接種意識の変化など、他の要因は影響していないと考えられた。
- これらの結果から、2003年度生まれの対象者のHPVワクチン接種率の増加は、いすみ市が個別に送付したリーフレットの影響が強いと考えられた。
ポイント
- 国によるHPVワクチンの積極的推奨の一時差し控えの中で,地方自治体から対象となる女児と保護者に子宮頸がんとHPVワクチンに関するリーフレットを送付することは有効だと示された。
著者の先生からのコメント
いすみ市の取り組みにより、積極的勧奨差し控え中にも関わらず、市内の女子のHPVワクチン接種率が有意に上昇しました。いすみ市のご担当の皆様に敬意を表したいと思います。その後、厚労省の通知が全国に発出され、全国の自治体でも対象者への案内の個別送付が始まっています。接種率が一定程度上昇することが期待されますが、これで十分というわけではなく、更なる接種率上昇に向け、皆様のご理解・ご協力をお願いいたします。
日本人女性におけるHPV感染と子宮頸部高度異形成病変のリスクファクター
性行動(初交年齢、性的パートナーの数)、HPV感染、子宮頸部高度扁平上皮内病変(CIN2+)の相関関係を調査。
性行動にかかわらず、HPV16/18に感染していることが、日本の若年女性のCIN2+の最も重要な危険因子である。
要旨
- 子宮頸がんのほとんどが、性行為によって感染するハイリスク型ヒトパピローマウイルス(hrHPV)の持続的な感染によって引き起こされる。ワクチンでHPV感染の予防が可能で、早期に診断・治療すれば治癒可能ながんである。
- 日本では、年間10,000人以上が子宮頸がんに罹患し、2,700人以上が亡くなっており、子宮頸がんや前がん病変であるCINの発生率は、生殖年齢の女性で増加している。20歳以上の女性には、2年に一度の検診が推奨されているが、受診率はOECD諸国の中でも低い。(20~69歳の女性で42.4%)
- 日本では、2009年に2価のHPVワクチン、2011年に4価のHPVワクチンが承認され、2013年4月から定期接種となったが、ワクチンの有害事象についてメディアで根拠なくセンセーショナルに報道されたことで、厚生労働省が2013年6月にHPVワクチンの積極的な勧奨を中止した。1994~1999年生まれでは70%以上の接種率だったが、積極的勧奨中止後、接種率は劇的に低下し、2000年生まれ以降では、1%未満となっている。
- 本研究では、子宮頸がんの真の要因を明らかにするため、生殖年齢に達した日本人女性を対象に、性行動(初交年齢、性的パートナーの数)、HPV感染、 CIN2+の相関関係を調査した。(CIN2+とは、子宮頸がんの前がん病変であるCINの中でも、がんへの進展率の高いCIN2以上を表す。)
- 2014年4月から2016年3月にかけて、新潟市で公費による子宮頸がん検診を受診した3968人の女性が本研究に登録され、さらに、過去に性交渉の経験のない人やその他結果等に不備のある人が省かれ、最終的な分析では、3231人の女性が対象となった。各年齢層の参加者数は、A群(20-30歳)が2179人、B群(35-36歳)が725人、C群(40-41歳)が327人となった。
- 登録者(新潟市のがん検診を受診した一般集団)の初交年齢の平均は18.4歳で、初交年齢が14歳以下であったのは全体の3.4%であったが、そこから急増し、70%以上が10代での初交を経験したと回答した。性的パートナーの数は2~5人が全体の半分以上を占め、6~9人、10人以上と回答した者も合計で全体の3割を占めた。
- hrHPV の感染率は、初交年齢が20歳以上、17~19歳、15~16歳の女性でそれぞれ7.4%、12.2%、16.4%と徐々に増加し、14歳以下でピークに達した(26.6%)。
- 性的パートナーの数はHPV感染の有意な危険因子であった。hrHPV全体の感染率は、性的パートナーの数が1人、2~5人、6~9人の女性で、それぞれ3.6%、9.0%、20.2%と徐々に増加し、10人以上の女性でピークに達した(25.1%)。また、HPV16/18感染率ついても同様の傾向が見られた(p <0.01)。
- 一方で、CIN2+の最大の危険因子は、HPV16/18感染であった。HPV 16/18感染は、性行動、年齢、喫煙歴を調整しても、CIN2+の発生リスクを113.7倍に増加させる。つまり、性行動にかかわらず、HPV16/18への感染が、日本の若年女性のCIN2+の最も重要な危険因子である。
- HPV16/18感染は、HPVワクチンで予防することができることから、HPVワクチンの積極的な推奨の再開が望まれる。
ポイント
- 性行動にかかわらず、HPV16/18への感染が、日本の若年女性のCIN2+の最も重要な危険因子であることがわかった。
- そのため、初交前にHPVワクチンを接種すれば、HPV16/18感染、およびCIN2+の発生リスクを軽減することができる。
本研究の問題点
- 日本の一地域でしか実施されていないため、本研究の結果は日本全体の人口を反映していない可能性がある。しかし、初交の年齢に関しては、本研究の結果は、日本の全47都道府県で実施された性行動に関する最近の日本のインターネット調査と類似していた。
- HPVワクチンの接種を受けた女性の数が少ないため、多変量解析においてワクチン接種の有無を検討できなかった。
- 30代と40代の女性の参加者数が少なかった。
- 女性のHPV感染と子宮頸部疾患の重要なリスク要因でもある男性の性行動に関する情報がなかった。
論文著者 山口真奈子先生からのコメント
本研究は、日本人女性の性的活動性の実態とHPV感染・子宮頸部病変の関りを調べた貴重なデータです。子宮頸がんの患者さんを苦しめる大きな問題点の一つに「子宮頸がん=性に奔放」という世間からの偏見があります。HPVは性行為を介して感染するため、パートナーの数の増加はHPV感染リスクを増加させることは事実です。しかしながら、本研究では子宮頸部高度異形成病変(CIN2+)の最大のリスクは性行動にかかわらずHPV16/18型感染であることが実証されました。これは、たとえパートナーが1人であったとしても、HPV16/18型に感染してしまうとCIN2+を罹患するリスクが113.7倍になることを意味しています。HPV16/18型を予防するワクチンは12-16歳の女子であれば無料で接種することができます。本研究では、現代の日本人女性の多くが10代で初交を経験し、生涯において複数人の性的パートナーを持つことはごく普通のことであることもわかりました。思春期の子供たちに対する正しいがん予防教育、性教育の充実と、初交前のワクチン接種の普及が日本の子宮頸がん予防にとって重要であると考えます。
日本の若年女性における子宮頸部高度扁平上皮内病変の発生に対するHPV ワクチンの効果
日本人女性を対象としたワクチン効果についての最新アップデート
HPVワクチン接種が子宮頸部高度扁平上皮内病変の減少に結びつくことをさらに証明
要旨
- 日本で子宮頸がん検診を受けた20~29歳女性を対象とし、子宮頸部高度扁平上皮内病変[従来の分類法におけるCIN2(中等度異形成)、CIN3(高度異形成・上皮内癌)に相当]に対するHPVワクチンの効果を評価した論文である。なお、本研究は今野ら(2018)の先行研究をアップデートしたものとなる(詳細はhttp://kanagawacc.jp/vaccine-jp/326/を参照)。
- 日本では、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種は2010年11月に「子宮頸がん等ワクチン接種緊急対策事業」として開始し、2013年4月に定期接種化されたものの、3か月後の同年6月に積極的な接種勧奨の一次差し控えという経緯をたどってきた。こうしてワクチン接種が初めて施行されてから10年以上経過したにも関わらず、日本における子宮頸部高度扁平上皮内病変に関するHPVワクチン接種の効果を調査した研究は散見される程度である。
- 先行研究では、2015年4月~2016年3月において子宮頸がん検診を受けた22,743人の女性を対象とし、CIN2以上に対するワクチン予防効果が示されたが、CIN3以上に対する予防効果はサンプル数が不足していたことにより証明できなかった。
- そこで、本研究はCIN3以上のサンプル数を増やし、先行研究と同様に日本対がん協会データベース(最終的には19支部のデータを分析)を用いて、子宮頸部生検の結果とワクチン接種歴(自己申告ベース)の有無を集計した。2015年4月~2017年3月の間に子宮頸がん検診を受けた20歳から29歳までの女性が対象となった。HPVワクチン接種を受けなかった女性と比較し、ワクチン接種を1回以上受けた女性がCIN2以上およびCIN3以上となる相対リスクをポアソン回帰分析で予測した。
- 子宮頸がん検診を受診した34,281人の女性のうち、3,770人(11%)がHPVワクチン接種を1回以上受けていた。CIN2以上の有病率は、HPVワクチン接種を受けた女性において、ワクチン接種を受けていない女性と比較し統計的に有意な低下を認め、発生リスクは76%減少した(相対危険[RR]=0.24、95% CI:0.10~0.60)。また、CIN3以上に対しても発生リスクが91%減少する(RR=0.09、95%CI:0.00~0.42)という高いワクチン予防効果を認めた。
- 20~29歳の日本人女性において、HPVワクチン接種を1回以上受けた女性は高度扁平上皮内病変の有意な低下を認めた。
- 日本における子宮頸がんの罹患率低下のために、HPVワクチン接種の積極的な勧奨を行うべきである。
- 本研究のリミテーションは、性行動や健康行動に関する背景情報がない、HPVサブタイプに関する情報がない、などによりワクチン接種群と非接種群の比較妥当性に一定の限界があることが上げられる。また、HPVワクチン接種歴は自己申告制であるため思い出しバイアスが否定できない。
- なお、本研究では、HPVワクチン接種歴に関して、がん検診時の問診票による自己申告を用いたため、上記のようなバイアスがあることは否定できない。しかし、研究対象全体と厚労省が報告する接種率(初回)は、ほぼ同様であった。
ポイント
- 本研究は、CINおよび検診に関する全国最大データベースである日本対がん協会のデータを用いて、高度扁平上皮内病変、とくにCIN3+に対して91%というHPVワクチンの高い予防効果を示した。
- HPVワクチン接種の積極的勧奨を早急に行うことで、接種率が70%以上を回復できれば、子宮頸がんの罹患率および死亡率の上昇を防ぎ、やがては減少へと繋がるであろう。
責任著者 今野良先生からのコメント
【海外9価HPVワクチン特集論文(3)】4価HPVワクチンの単回投与後の9価HPVワクチン接種による9タイプのHPVに対する免疫反応
4価HPVワクチンの単回投与後の9価HPVワクチン接種による9タイプのHPVに対する免疫反応
4価HPVワクチン2回目の接種を受けなかった者に対して9価(9vHPV)を打った場合の予防効果は妥当性がある
ポイント
- 2回接種で予防接種プログラム完了としている地域において、4価HPVワクチン(4vHPV)の初回接種後に何らかの理由で2回目の接種を受けなかった者に対して9価(9vHPV)を打った場合の予防効果の妥当性を示す一つのデータとなった。
- 4vHPV接種後の被検者の抗体価の平均値(GMT)はHPV6, 11, 16, 18に対してそれぞれ、6.1 AU/ml, 7.7 AU/ml, 20.1 AU/ml, 6.3 AU/mlであった。4vHPV接種の時点で既にほかの5つのHPV(31, 33, 45, 52, 58)に対しても抗体力価(2.2 AU/ml, 1.6 AU/ml, 2.9 AU/ml, 1.0 AU/ml, 1.8 AU/ml)が検出された。結果として58-87%の被検者において、4vHPVでカバーされていない5つのHPV(31, 33, 45, 52, 58)に対して抗体陽性を認めた。
- 9vHPV接種1か月後には、36倍~89倍にまで9種類すべてのHPVに対する抗体価が上昇した。
- 単回の4価ワクチン接種数年後でも他のHPVタイプに高い抗体陽性率が確認され、さらに9vHPVを接種したところ9種類のHPVすべてのタイプに対する免疫反応の増加が認められ、単回投与しかしていないワクチン接種者で4価から9価への変更を検討する場合に有用なデータとなり得ると考えられた。
- 9vHPV接種1か月後までで、重篤な副反応は認めなかった。
詳細解説
- カナダでは2回接種を国の接種基本プログラムとしているが、2回目接種を受けないドロップアウト者が5%程度存在する。何らかの理由でワクチンの種類を変えなければならない場合に、本研究のデータは有用なものとなるだろう。
- 研究の対象は13~18歳までの女子で4vHPVを一度のみ受けたことがある31名。
- 4価HPVを受けてから今回9価HPVを受けるまでは3-8年のインターバルがあった。
- 9価ワクチンを受けた後は約1か月後に血液検査にて抗体価の測定が行われた。
- ELISA法を用いて9価HPVに含まれる9種類のHPVに対する抗体の存在を測定した。
- 4価HPVのみでカバーされていない5つのHPV(31, 33, 45, 52, 58)型に対しても抗体反応を認めた場合、続いて接種する9vHPVによってブースター効果(抗体産生が増強すること)を認めた。これは単回の4価HPVによって9タイプのHPVに対する免疫プライミング(免疫系を活性化するための予備刺激)が起こっていたことを示す。
本研究の問題点
- 研究参加者の数が31と小さいこと。
- 比較対照群(4価HPVワクチンまたは9価HPVワクチンを2回接種した群)を用意していなかったこと。
【海外9価HPVワクチン特集論文(2)】フランスにおける9価HPVワクチンによる潜在的な疾患発生抑制効果
9価HPVワクチンにより潜在的に90%の浸潤がん・高度扁平上皮内病変・外陰疣贅・肛門がんの発生が抑制される可能性がある
フランスにおける9価HPVワクチンによる疾患発生抑制効果を予測
要旨
- フランスで行われた臨床試験 Etude de la Distribution des Types d’HPV(EDiTH)で、HPV関連疾患(浸潤子宮頸がん516例,高度扁平上皮内病変(HSIL)493例,軽度扁平上皮内病変(LSIL)397例,外陰疣贅423例,咽頭喉頭がん314例)の病変からDNAを抽出して、HPVのサブタイプを解析した。この先行研究では、4価(6/11/16/18型のHPVを予防)のHPVワクチンは14-33%の軽度扁平上皮内病変および70-83%の子宮頸がんや肛門がんに潜在的な効果があると報告されている
- 本研究では、前述の臨床試験のデータを用いて、4価(6/11/16/18)のHPVワクチンと9価(6/11/16/18/31/33/45/52/58)HPVワクチンの潜在的な効果を比較した。
- 潜在的な効果の見積は、病変から検出されるHPVのサブタイプが、HPVワクチンのカバーするタイプと一致すれば潜在的な効果があると判断している。指標は二種類を用いている 低い見積;①9価ワクチンでカバーされるサブタイプ(6/11/16/18/31/33/45/52/58)のみが検出されその他のHPVサブタイプの感染を認めない症例の割合 高い見積;②9価ワクチンでカバーされるサブタイプ(6/11/16/18/31/33/45/52/58)に加えて、他のHPVサブタイプも検出される症例の割合
- HPV9価ワクチンの潜在的効果は、浸潤子宮頸がんで85%(低い見積)から92%(高い見積)、 子宮頸部高度上皮内病変で77%から90%、子宮頸部軽度上皮内病変で26%から56%、外陰疣贅で69%から90%、肛門がんで81%から93%、咽喉がんで41%から44%であった。
- 9価HPVワクチンと4価HPVワクチンの比較で、カバーするサブタイプの追加効果を検討すると、子宮頸がんで9.9%(低い見積)から15.3%(高い見積)、子宮頸部高度上皮内病変で24.7%から33.3%、子宮頸部軽度上皮内病変で12.3%から22.7%、外陰疣贅で2.1%から5.4%、肛門がんで8.5%から10.4%、咽喉がんで0.0%から1.6%の追加効果が想定された。
ポイント
多種のHPV関連疾患より検出されるHPVサブタイプを解析して、9価HPVワクチンによる疾患発生抑制効果を予測した。9価(6/11/16/18/31/33/45/52/58)HPVワクチンは4価(6/11/16/18型)ワクチンと比べ、浸潤がん・HSIL・LSILに対する潜在的な効果を有意に増加させることが推計された。
補足
- 各HPV関連疾患のHPVサブタイプを解析し、4価ではカバーされないが9価でカバーされる症例の割合(追加効果)を、子宮頸がんの9.9%-15.3%、HSILの24.7-33.3%、LSILの12.3-22.7%、外陰疣贅の2.1-5.4%、肛門がんの8.5-10.4%、咽喉がんの0.0-1.6%と想定した。
- HPVの混合感染を認める病変の場合、どのHPVサブタイプが発がんの原因となっているか特定が困難である。単独感染の場合はそのHPVが原因と推測され、混合感染の場合はそのHPVが発がんの原因となっている可能性がある。そこで潜在的な効果の見積には「低い見積」と「高い見積」二種類の指標を用いている。
【海外9価HPVワクチン特集論文(1)】9価HPVワクチンの関連する疾患および子宮頸部手術に対する有効性:過去の偽薬(プラセボ)集団との比較
以前に行われた4価ワクチン・プラセボ比較試験のプラセボ群を使用し、9価ワクチンの効果を推計
9価HPVワクチンはプラセボと比較して有効であると推計された
要旨
- 9価ヒトパピローマウイルスワクチン(以下、9価ワクチン)は、以前より使用されている4価ワクチン(HPV6、11、16、18)に5つの型(31、33、45、52、58)を追加した9つの型のHPVに対するワクチンです。
- 4価ワクチンの効果を判定するために行われたFUTUREⅠ(NCT00092521)、 FUTUREⅡ(NCT00092534)のふたつの臨床試験は4価ワクチンを接種した群と対照群としてプラセボを接種した群を比較検討したものです。
- 9価ワクチンの効果を判定するために行われた臨床試験(NCT00543543)では、すでにHPVワクチンの有効性が確認できていることから、対照群をプラセボ接種とすることができず、4価ワクチンを接種しています。このため、9価ワクチンの接種者と非接種者の比較検討はできていません。
- 上記の3つの臨床試験は同じ適格基準(研究に参加するときの基準)を用いているために、以前に行われた4価ワクチンのための臨床試験FUTUREⅠ、FUTUREⅡのプラセボ接種群をNCT00543543の9価ワクチン接種群と比較することで9価ワクチンの効果を明らかにすることを試みた研究です。(図1)
- まず、臨床試験の開始時に14種類(6、11、16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59)のHPVの感染がなかった参加者のみで検討を行いました。これはHPVワクチンの理想的な接種の対象である性交渉を持つ前の集団を想定したもので、9価ワクチン群は4365人、プラセボ群は5887人でした。9価ワクチン群では平均4年後まで、プラセボ群では平均3.6年後までフォローアップされており、その結果を比較しています。高度子宮頸部病変(前がん病変)は9価ワクチン群では2症例、プラセボ群では141症例あり、9価ワクチン接種により98.2%の減少、子宮頸部手術(円錐切除術など)は9価ワクチン群では3症例、プラセボ群では170症例あり、ワクチン接種により97.8%の減少が認められました。また、腟と外陰部の高度病変は9価ワクチン群では0症例、プラセボ群では29症例あり、ワクチン接種により100%の減少が認められました。(図2)
- 次に、臨床試験開始時のHPV感染があった参加者を含めて検討を行いました。すでに感染していたHPVの型が関連する病変の予防効果はありませんでしたが、すでに感染していたHPVの型以外が引き起こす子宮頸部、外陰部、腟の病変に対しては発生を減少させる効果がありました。たとえば、臨床試験開始時にHPV6、11、16、18のどれかに感染していた参加者でも、HPV31、33、45、52、58のどれかが関係する子宮頸部病変については9価ワクチン群ではプラセボ群に比べて91.1%減少していました。
ポイント
-
- 性交渉前のHPV感染が起こっていない集団への9価HPVワクチン接種は子宮頸部、外陰部、腟の病変を減少させることが推計されました。また、すでに性交渉のある女性に対しても9価ワクチンの恩恵があることが判明し、キャッチアップ接種を支持する結果となりました。9価ワクチンの効果的な実施により、HPVが関連する疾患とその手術等の医療処置の負担が軽減される可能性があります。
HPV ワクチン接種と浸潤性子宮頸がんのリスク低下~スウェーデンからの最新情報~
国レベルの疫学研究でHPVワクチンの浸潤子宮頸がん予防効果を証明
世界の子宮頸がん予防に与えるインパクトは極めて大きいと予想
要旨
- 子宮頸部高度前がん病変の予防に対する 4 価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの有効性(感染減少)と効果(前がん病変減少)は、これまでに示されてきた。しかし、4 価 HPV ワクチン接種と接種後の浸潤子宮頸がんのリスクとの関連を示すデータは不足している。
- スウェーデン全国規模の人口統計と保健に関する登録を用いて、2006~2017 年の間に登録されている約167万人の 10~30 歳の女児・女性を対象とした追跡研究を行った。追跡調査時の年齢、暦年、居住県、親の特性(学歴、世帯所得、母親の出生国、母親の病歴を含む)で調整を行い、HPV ワクチン接種と浸潤性子宮頸がんのリスクとの関連について評価した。
- 研究期間中、子宮頸がん罹患を 31 歳の誕生日まで評価した。子宮頸がんは、1回以上の4 価 HPVワクチンの接種を受けたことのある約53万人(ワクチン接種集団)中の19 人と、ワクチン接種を受けなかった約115万人(ワクチン非接種集団)中の 538 人で診断された。
- 子宮頸がんの累積発生率は、ワクチン接種を受けた女性では 10万人あたり 47 件、受けなかった女性では 10万人あたり 94 件であった。追跡調査時の年齢で補正を行うと、ワクチン接種集団の非接種集団に対する発生率比は 0.51(95%信頼区間 [CI] :0.32~0.82)であった(49%の減少効果)。他の関連が予想される因子でさらに補正を行うと、発生率比は 0.37(95% CI:0.21~0.57)であった(63%の減少効果)。すべての関連因子で補正を行うと、発生率比は、17 歳になる前にワクチン接種を受けた女性で 0.12(95% CI:0.00~0.34)(88%の減少効果)、17~30 歳で受けた女性で 0.47(95% CI:0.27~0.75)(53%の減少効果)という結果になった。
- スウェーデンの 10~30 歳の女児・女性において、4 価 HPV ワクチン接種は、国レベルでの大幅な浸潤性子宮頸がんのリスク減少と関連した。
ポイント
- 4価HPVワクチン接種は、大幅な浸潤性子宮頸がんのリスク減少と関連があることを示した歴史的重要論文である。
- 接種した年齢が若いほど、浸潤性子宮頸がんの発生率の低下は著しい。
- 世界は、確実に子宮頸がん予防のためのHPVワクチン接種率を高める方向に舵をとるであろう。日本では、HPVワクチン接種率低迷が長期化していることが懸念される。
補足
- スウェーデンでは、2006年にHPVワクチンが承認され、4つのHPV型(6、11、16、18型)をカバーする4価HPVワクチンを中心に接種されてきた経緯がある。接種回数は2006年からは3回接種、2015年以降は学校単位プログラムでは2回接種のスケジュールに応じて施行されている。
- 2007年5月には13~17歳の女児に対するHPVワクチンの助成金の支給を開始、2012年には13~18歳の女児・女性を対象に無料のキャッチアップHPVワクチン接種プログラムと、10~12歳の女児を対象とした学校単位でのHPVワクチンプログラムの導入を行った。
- 現在は、23~64歳の女性を対象とした、対策型子宮頸がんスクリーニングプログラムへの参加が勧奨されており、年齢に応じて3~7年ごとに検診受診の勧奨通知が送付されている。
日本での子宮頸部高度扁平上皮内病変以上(HSIL+)に対するHPVワクチン接種の効果
ワクチン接種を受けた女性は子宮頸部高度扁平上皮内病変が減少
HPVワクチンの効果が検診後の病理生検で科学的に証明された
(訳注:子宮頸部高度扁平上皮内病変HSILという用語は従来、細胞診(ベセスダ分類)に用いられてきたが、2014年WHO病理分類以降、病理診断にも用いられている)
要旨
- HPVワクチン接種の効果を明らかにするために、日本対がん協会の子宮頸がん検診のデータを使用して、HPVワクチン接種の有無と検診で発見された子宮頸部高度扁平上皮内病変(従来の分類法でのCIN2およびCIN3、さらに以前の分類法での中等度異形成、高度異形成、上皮内癌に該当。WHO 2014年分類でのHigh-grade squamous intraepithelial lesion, HSIL)およびそれ以上(本論文では、HSIL+と表記)の発生率を検討している。
- 日本では2010年から「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」の一環として地方自治体が主体となってHPVワクチン接種を開始し、2013年4月からは予防接種法に基づいて定期接種が施行されて現在も続いている。しかし、2013年6月14日以降は、厚生労働省は積極的な接種勧奨を停止し、現在は接種率が1%未満となっている。
- 日本の子宮頸がん検診は対象年齢を20歳以上としており、2年に1回(自治体によっては1年ごと)行われている。しかし、他の先進国のように、国民すべてを統一したがん検診登録制度(レジストリ)やワクチン接種登録制度はなく、相互のデータリンクもされていない。
- 日本対がん協会は全国47都道府県に46支部を置き、自治体からのがん検診を担っている。子宮頸がん検診の際に、HPVワクチン接種歴を問診した16支部から、ワクチン接種の有無と検診結果を収集した。細胞診異常だった場合には、コルポスコピーのもとで生検が行われた。生検病理診断の子宮頸部高度扁平上皮内病変以上(HSIL+)の発生リスクをワクチン接種有無別に解析した。
- 「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」の接種対象は当時16歳(1994年生れ)であったが、2014年度に検診対象年齢(20または21歳、自治体、誕生月によって異なる)に至った。
- 2015年度 20~29歳検診受診者22,743人の結果が収集され、このうち1,969人(8.7%)がHPVワクチン接種を受けていた。年齢ごとの接種率は20歳24.8%、21歳38.9%、22歳9.5%、23歳7.6%、24歳4.3%、25歳2.3%、26歳2.7%、27歳3.0%、28歳2.5%、29歳2.6%となっていた。20~21歳女性は上記の事業対象で、23歳以上の女性は対象外であったので接種率に差がある。
- 病理生検がHSIL+だったのは、HPVワクチン接種歴のある1,969人のうち4人(0.20%)で、ワクチン接種歴のない20,774人のうちの138人(0.66%)であった。接種者ではHSIL+の発生リスクが69%減少していた。ワクチンの効果には年齢による統計学的な差は認められなかった。図1は20~24歳と25~29歳の年齢層に分けてワクチン接種の有無とHSIL+の発生率をグラフにしたものである。本来、HSIL+や子宮頸がんは、25歳以降に多く発生するが、年齢による差が出なかった(すなわち、ワクチン接種が効果的だった)理由として検診受診率が低いこと、20歳代のHSIL+にはHPV16型、18型の比率が高いことが挙げられる。
- 日本では公衆衛生学的な情報の体系的な把握、例えば個人のがん検診結果やHPVワクチン接種歴などをリンクさせる国内で統一されたデータベースのレジストリがないため、疫学調査をすることが大変困難である。そのような環境の中、本研究はこれまでで最大の22,743人の一般的な検診受診者(population-based)データを用いて、臨床試験(治験)ではないリアルワールドでのHPVワクチンの効果を解析した。
- 日本でたくさんの若い女性が子宮頸がんで亡くなる前に、日本政府はHPVワクチンプログラム推進を前向きに検討すべきであり、この研究が科学的根拠になると考える。
ポイント
- 実際の現場での検診受診者を対象に、HPVワクチン接種が子宮頸がんの直接の前駆病変であるHSIL+発生を低下させたことを証明した。
日本のおけるHPVワクチン接種率低下の危機がもたらす将来への影響をいくつかのモデルで予測した研究
HPVワクチン接種率が回復しなければ、日本における子宮頸がん予防に関する将来への影響は甚大だ
これまでのHPVワクチン接種率低下により将来約5000人の女性が子宮頸がんによって命を落とすと予測される
要旨
- 日本では2010年より12-16歳の女児に対するHPVワクチン接種が開始され、70%を超える接種率を達成していたが、政府による積極的接種勧奨の中止により、現在では接種率は1%を下回っている。
- このワクチン接種控えによる危機が、子宮頸がんの罹患率や死亡率に対してどのような不利益を生んでいるか、また接種率の改善によって将来の子宮頸がんの罹患率や死亡率がどれだけ改善するか、予測モデルを用いて算出した。
- 「Policy1-Cervix」というモデル解析のプラットフォームを用いて、日本のHPV感染率、子宮頸がんスクリーニング、子宮頸がん罹患率や死亡率などについてモデルに適合させて将来予測を行った。このモデルはオーストラリア、ニュージーランド、イギリス、中国などで既に実績のあるツールである。オーストリアの研究は2018年11月6日発信の最新学術情報で報告している。
- HPVワクチンによって接種率が極端に低い状況が土台となる1994年から2007年生まれの集団における生涯の子宮頸がん罹患や死亡数について予測した。
- さらに定期接種が70%にまで回復し、キャッチアップ接種(2020年に13歳から20歳となる、接種率が低下していた時期に定期接種を逃してしまった世代に対する後追い接種)も50%を達成した場合の2020年以後の回復シナリオについても予測した。
- 2013年から2019年まで続くこのワクチン接種控えによる危機によって、1994年生まれから2007年生まれの世代の生涯における子宮頸がんリスクとして、仮に70%の接種率が達成し続けられた場合に比べて、24,600~27,300人の罹患と5,000から5,700人の死亡者が増えると予測される。(表:(2)のシナリオを(7)と比較した場合、水色の色かけ部分)
- しかし、2020年から接種率が元通りになり、接種を逸してしまった世代に対してもキャッチアップ接種が行われた場合は、14,800~16,200人の罹患と3,000~3,400人の死亡を防ぐことができる。(表:(5)のシナリオを(2)と比較した場合、オレンジ色の色かけ部分)
- もし2020年に接種率が戻らなければ、2020年に12歳になる世代ではさらに3,400~3,800人の罹患と700~800人の死亡リスクを抱えることになる。
- もしこのままワクチン接種控えによる危機が続けば、接種控え以前の高い接種率が継続された場合に比べて、今後50年で9,300~10,800人の防ぎ得る死亡数を許すこととなってしまう(図)。
- HPVワクチン接種を控えることによる影響は5,000人程度の女性が子宮頸がんで命を起こすことに相当すると推測された。速やかなHPVワクチン接種の回復とキャッチアップ接種によって、このうちの多くの死を予防することができるであろう
ポイント
迅速な接種率の回復とキャッチアップ接種が重要であることがはっきり分かる。
表 1994年~2007年生まれの子宮頸がん罹患と死亡の生涯リスクのモデル予測
HPVワクチンと体位性頻脈症候群(POTS)、デコンディショニング、運動誘発性痛覚過敏:副反応として報告されている症状について再考する
HPVワクチン接種の後の身体活動低下が多様な症状を引き起こしている可能性
POTS、デコンディショニング、運動誘発性痛覚過敏の治療の中心となるのは運動療法
要旨
- この論文では、ヒトパピローマウイルスワクチン接種(Human papillomavirus vaccination、以下HPVV)のあとにおこる多様な症状を、紛れ込みとしての体位性頻脈症候群(postural tachycardia syndrome、以下POTS)、HPVV接種後の身体的活動の低下による二次的な現象としてのデコンディショニング、運動誘発性痛覚過敏に起因する可能性を説明しようと試みている。
- HPVVは2010年に12~16歳女子を対象に導入され、2013年からは定期接種となった。HPVV後の様々な副反応を疑う症状が報道され、政府は安全性の確認ができず定期接種化から2か月後に積極的勧奨が中止となった。接種率は70%から1%未満へと低下した。
- 2014年にある研究グループがHPVVの後に現れる多様な症状をHPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HPVV-associated neuro-immunopathetic syndrome、以下HANS)と名付け、治療法は確立していないと述べた。症状には慢性痛、倦怠感、自律神経系の障害、学習意欲の欠如、集中力の低下などが含まれる。すでに起立不耐性とPOTSがHPVVの副反応として報告されていたのにもかかわらず。客観的な検査で異常がなかったことから、その研究グループは視床下部病変に起因する免疫系統の障害が起こっていると推測した。しかし、筆者らはそれ以外の病因として紛れ込みとしてのPOTS、二次的に起こるデコンディショニング、運動誘発性痛覚過敏の可能性を挙げた。
- POTSとは起立不耐性のもっとも一般的な症状のひとつで、起立試験で、立位後10分以内に30/分以上(12-19歳の場合には40拍/分以上)の心拍数の上昇を認めることで診断する。男子よりも女子に多く、15~25歳に好発する。臨床的特徴は様々で体位性頻脈に脳の血流の低下と交感神経の亢進の症状が伴う。めまい、立ちくらみ、動悸、かすみ眼などの起立失調とドライアイ/ドライマウス、鼓腸、悪心、嘔吐、便秘、下痢、片頭痛などの非起立性の症状とがある。POTSはまた慢性疲労症候群と機能性胃腸障害と併存することが報告されており、倦怠感、慢性痛、温度感覚の変化に関連する。POTSの患者は記憶障害ともうろう状態を訴えるが、これは注意力と集中力の低下、睡眠障害を表現したものであろう。息切れ、胸痛、先端チアノーゼなども起こる。日本ではPOTSが心血管系の症状だけでなく心血管系以外の神経、筋骨格、消化器、呼吸器、泌尿器などの症状を呈することはあまり知られていない。POTSの治療は足の交差や弾性ストッキング、ナトリウムと水の摂取などの非薬物的治療と薬物療法(α1アドレナリン作動薬、ミネラルコルチコイドなど)である。
- HPVV後の症状とPOTSの症状を比較すると類似点が多く、HPVVによって引き起こされると考えられるいくつもの症状がPOTSに起因する可能性があることを示唆している。
- デコンディショニングは、慢性疾患や外傷、手術後などで長期臥床をした後に、筋力低下や循環、呼吸などの機能が低下することである。デコンディショニング(特に心臓や血圧などへの影響)はPOTSと強く関連することも示唆されている。宇宙飛行士が地球に帰還した直後に自力で立つことができないように宇宙の微小重力環境でデコンディショニングが起こることが知られている。日本でも宇宙の微小重力環境を模したベッドレスト実験の報告がいくつも行われており、健康な若者でも10~20日間といった比較的短期間の寝たきりで起立不耐性が起こる。ならばHPVV接種後に痛みによって身体活動が低下したことでデコンディショニングに陥り、様々な症状を起こすことが考えられる。
- HPVV後の慢性痛を説明するもう一つの要因を考えると運動誘発性痛覚過敏という状態がある。痛みで身体活動が低下して休みがちになることが原因で運動による痛覚過敏が生じることが報告されている。つまり活動性が低下して筋肉と関節の機能が低下しているときに突然運動を開始すると、痛覚過敏によって痛みがさらに悪化する。そして慢性的な腰痛などで痛みが怖いために動くことを避ける恐怖回避は、さらに運動を制限しデコンディショニングを増悪させると考えられる。HPVV後の痛みを含めた症状が、身体活動の低下によって2次的に生じるデコンディショニングと痛覚過敏を原因とするのであれば、炎症所見がないのに自己免疫疾患のような全身的な症状を生じることも驚くべきことではない。
- HPVVの有害事象とされている症状が、POTS、デコンディショニング、運動誘発痛覚過敏によって説明できる場合、これらの一般的な治療は運動療法である。
ポイント
- HPVV後の多様な症状の原因は、紛れ込みのPOTS、二次的なデコンディショニング、運動誘発痛覚過敏という状態と考えられる。