子宮頸がんの発生は性交渉によって感染するトパピローマウイルス(HPV)と密接に関連しています。HPVには約100種類のタイプがあり、その中で約15種類が頸がんと関係しています。日本では2000年代に入り20代の頸がん罹患率の増加が問題となっており、その背景には20代女性の頸がん検診受診率が極めて低いことがあげられます。HPVは性交渉経験のある女性であれば誰でも感染の可能性があるありふれたウイルスであるため、普通に生活をしている女性であれば、誰でも子宮頸がんになるリスクがあるとも言えます。しかし、発がん性のHPVは感染しても9割は自然に排除され、持続感染となった女性の1割弱が前がん病変の異形成となり、さらにその1割以下に子宮頸がんが発生します。細胞診という検査による子宮頸がん検診は、異形成(前がん病変)も発見することが可能で、世界各国で住民基本検診として行うことで、明らかな死亡率減少効果が証明されています。厚生労働省指針では、2004年より検診の対象年齢が30歳以上から20歳以上へと引き下げられ、受診間隔は2年ごとが奨められています。また、本邦女性の低い検診受診率を改善するため、平成21年度より多くの地方自治体で、年度始めに20歳、25歳、30歳、35歳、40歳の女性に5歳きざみで無料の頸がん検診クーポン券が配布されました(5年ごとに受ければよいわけではありません)。しかし、この政策も見直され、クーポン券配布の年齢は(多くの自治体は20歳のみなど)。
子宮頸がん検診は、産婦人科医師が子宮頸部からヘラなどで細胞をこすり取り、ガラスの上に塗り広げ、染色した後に異常な細胞の有無を調べる細胞診という方法で行います。この子宮頸部細胞診の検査自体は約1~2分で終了し、リラックスして力をぬけば、あまり痛みはありませんが、検査後少量出血することがあります。性交渉の経験がない女性は、無理に受ける必要はなく、月経異常や下腹痛、帯下などの気になる症状があれば、保険診療として産婦人科を受診して下さい。
神奈川県ではすべての地方自治体が、住民基本検診のなかで、子宮頸がん検診を行っていますが、体制や費用は自治体によって異なりますので各自治体のホームぺージなどでご確認下さい。また、症状があり産婦人科を受診した場合には、子宮頸部細胞診を保険診療として行うこともありますし、人間ドックのオプションになっていることもあります。現在は、妊婦さんにも妊娠初期にほぼ全例に頸がん検診が施行されています。一方、主婦検診などで細胞診サンプルの自己採取が行われている場合、サンプルの状態が悪く診断の正確さが産婦人科医師による採取より劣ることがわかっています。また、細胞診自体も完全な検査法ではありませんので、異常な出血やおりものの異常などの症状が続くようであれば、検診の結果に異常がなくても産婦人科を受診し、詳しい診察を受けることも重要です。
子宮頸部や腟内より細胞を採取し、発がんハイリスクのHPV感染の有無を調べる検査です。細胞診でごく軽度の細胞の異常(ASC-US)が指摘された場合、保険適用として検査ができます。日本の子宮頸がん検診のガイドラインは、現在は細胞診のみの検査ですが、先進国を中心にHPV検査を国の検診プログラムに導入する動きが広がっており、日本国内でも研究が行われています。しかし、20歳代では20~30%の女性が、何も病気がなくても陽性となってしまうため、検診への導入は適応年齢を慎重に検討する必要があります。また、人間ドックや施設検診では、自費(約5000円程度)で実施されることもあります。
現在世界100カ国以上で使用可能な頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)には、子宮頸がん全体の約60-70%の原因であるHPV16・18型の感染を予防する2価ワクチンと、腟・外陰部の良性の疣状病変であるコンジローマ(がん化は稀)の一部の原因となるHPV6・11型と頸がんの原因となる16・18型の感染を予防する4価ワクチン、米国など一部の国で認可されている9値ワクチン(6・11・16・18・31・33・45・52・58型HPV感染予防)があります。2価ワクチンと4価ワクチンは、日本での接種が可能(小学校6年生-高校1年までは無料の定期接種)です。9価ワクチンは、2021年2月より日本でも接種可能となりましたが、まだ定期接種にはなっていません。また、4価ワクチンは、自費であれば2020年12月より9歳以上の男性にも適応拡大となり接種可能となりました。詳細は、日本産科婦人科学会ホームページ 「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4をご参照下さい。
HPVワクチンは、海外での大規模臨床試験の結果、性交渉開始前の女児を想定した集団において,前がん病変である中等度異形成以上の病変を約70%予防する効果が証明されました。欧米では、多くの国々で12歳前後の女児に公費負担で接種が行われ、さらに米国・カナダ・オーストラリアなどでは性交渉経験の可能性がある女性を多く含む10代後半から20代の女性にも、接種率が上昇するまでの一定期間公費補助による接種が行われました。また、オーストラリア・米国などでは男児への定期接種も開始されています。
本邦では、2013年4月よりHPVワクチンは定期接種となり、小学校6年~高校1年に相当する年齢の女子は無料で接種ができます。このワクチンは、6カ月間に3回の接種が必要で,自費での任意接種の費用は合計で4万5千から5万円と高額です。しかし、2013年6月より接種後の有害事象(痛み、運動障害など)の調査のため、現在国はHPVワクチンの積極的な接種の勧奨を中止しています。接種にあたっては、ワクチン接種では予防できない子宮頸がん関連のHPVタイプがあるため予防効果を確実にするには検診が不可欠であることや接種後に起こりうる症状について、接種を受ける本人や保護者がよく理解することも重要です。
臨床試験や疫学調査で本ワクチンの高い安全性が報告されており、他のウイルスに対する一般的なワクチンと比べて、全身的な重大な副作用で特に頻度が高いものは報告されていません。しかし、筋肉注射であるため、注射部位の痛みは9割以上、発赤や腫れなどの症状は約8割の方に生じます。また、若年女性で注射時の痛みのために失神を起こした事例がまれではありますが国内外で報告されているため、接種直後は30分程度安静にして異常がないことを確認することも重要です。妊娠や出産について、因果関係が明らかな異常の報告はありませんが、接種の途中で妊娠した場合、残りの接種は分娩後に行います。今国内で問題となっている、慢性疼痛や運動障害、起立性調節障害などの症状については、HPVワクチン接種との明らかな因果関係は国内の調査においては不明となっており、接種と関係なく同様の症状が生じることも報告されています。