- 2021.9.8
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子宮頸がん予防情報
10年間にわたる医学部新入生女子を対象としたHPVワクチンに関する質問紙調査
Akiko Sukegawa, Kenji Ohshige, Yukio Suzuki, Taichi Mizushima, Yutaka Ueda, Masayuki Sekine, Takayuki Enomoto, Etsuko Miyagi. Ten-year questionnaire study on human papillomavirus vaccination targeting new female medical school students: Follow-up to the 2015 report. Journal of Obstetrics and Gynaecology Research 2021; DOI: 10.1111/jog.14949
HPVワクチンの接種率は2019、2020年度の新入生で著明に減少していた。
HPVワクチンの定期接種対象期間があったものの、HPVワクチンそのものを知らずに過ぎてしまった学生が多くいた。
要旨
- 子宮頸がん予防の二つの柱としてHPVワクチンと子宮頸がん検診があり、HPVワクチンの定期接種は小学校6年生から高校1年生相当までの女性が対象で、子宮頸がん検診は20歳以上の女性が対象となっている。しかし、現在の日本ではHPVワクチン接種率はほとんどゼロに近く、検診受診率も40%程度となっている。
- 大学新入生女子という集団は、現在では入学以前にHPVワクチン接種の対象者だった世代で、HPVワクチンが日本に導入された当初には公費助成の対象とならず自費で接種を受けた可能性のある世代である。また、もう数年で子宮頸がん検診の対象となる世代でもある。
- 現在の日本の状況を打開していく方策を見つける基礎データとして、若い女性のHPVワクチン接種はどの程度行われているか、子宮頸がん予防をどのように捉えているかを明らかにするために、大学新入生女子を対象とした質問紙法による経年的な調査を行った。
- 調査期間は2011-2020年の10年間、横浜市内の大学医学部(医学科、看護学科)の新入生女子を対象として調査を行った。質問紙法(アンケート調査)は、年齢、HPVワクチン接種歴、子宮頸がん予防に関する知識、性教育の内容に性感染や子宮頸がん予防が含まれていたかなどの内容で構成されている。
- ワクチン発売直後で公費助成がなかった世代のHPVワクチンの接種率は2011年5.4%、2012年13.5%であったが、緊急促進事業として費用の大部分を公費で負担するようになった2013年は48.5%と急激に上昇し、その後は同程度からやや減少した接種率であった。HPVワクチンは2013年4月に定期接種化されたものの、副反応の報告を受け同年6月に行政による積極的勧奨が中止となっている。この時に接種対象となった世代が2019年以降の新入生であるが、2019年14.3%、2020年5.1%と劇的にHPVワクチン接種率が減少していた(図1)。対象が医学生であるためHPVワクチン接種率は低いながらも、日本国内の他の地域での報告よりは高い傾向にあった。
- 2014年からは副反応の報道のあとにどのように対応したかも調査した。2019、2021年の新入生では報道後に接種を控えたと答えた学生が増えたことに加え、報道自体を知らなかったと答えた学生も増加していた(図2)。
- HPVワクチン接種に関連する要因を明らかにするために、接種率の高かった2015/2016年新入生(接種率65.2%)と低かった2019/2020年新入生(9.8%)を比較検討した。2019/2020年新入生では2015/2016年新入生に比べてHPVワクチンの認知度、性教育に子宮頸がん予防が含まれていたと答えた割合、HPVワクチン接種の実施の詳細を知っていた割合が低くなっていた。
ポイント
行政の積極的勧奨の中止を受け、HPVワクチン接種率は激減していた。接種率の低下だけでなく、HPVワクチンを知らない学生、副反応報道を知らない学生も増加している。子宮頸がん予防の推進のためには、広くHPVワクチンの知識の普及を行うことと、速やかな積極的勧奨の再開、対象期間に接種を逃した女性に対する支援を考慮する必要があると考えられた。