- 2021.6.22
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子宮頸がん予防情報
積極的勧奨の一時差し控え状況下でのHPVワクチン再普及のための戦略
Yutaka Ueda, Asami Yagi, Hazuki Abe, Satoshi Nakagawa, Ryoko Minekawa, Haruo Kuroki, Ayako Miwa& Tadashi Kimura the last strategy for re‐dissemination of HPV vaccination in Japan while still under the suspension of the governmental recommendation Sci Rep. 2020 Sep 30;10(1):16091. doi: 0.1038/s41598-020-73120-1.
地方自治体による情報提供の有効性を日本で初めて検証
地方自治体から子宮頸がんやHPVワクチンに関する情報を提供することでワクチン接種率は増加する
要旨
- HPVワクチンの有効性と安全性は世界的に証明されているが、日本では,ワクチン接種による有害事象について繰り返し報道され、厚生労働省は2013年6月にHPVワクチンの積極的推奨を一時的に差し控えた。推奨差し控え後に接種対象年齢に達した日本の2000年度生まれ以降の女子は、無料で接種できるにも関わらず、ワクチン接種率が低下しており、2000年度生まれ、2001年度生まれ、2002年度生まれ、2003年度生まれの女子の累積接種率は、それぞれ14.3%、1.6%、0.4%、0.2%と報告されている。
- いすみ市では2019年7月29日より、2003年度に生まれた女子(高校1年生相当)139人を対象に、子宮頸がんやHPVワクチンに関する情報を記載したリーフレットの送付を開始した。2003年度生まれの女子がHPVワクチンを無料接種できるのは、2019年度が最後だった。本研究では、いすみ市のリーフレット送付前後のHPVワクチン接種率を比較するために分析を行った。
- いすみ市では、国が積極的にワクチンを推奨していた1994年度〜1999年度生まれの対象女児の累積接種率(3回のうち1回目)は58.60%から94.67%へと大幅に上昇した。しかし、政府が推奨を差し控えた2013年以降、いすみ市の接種率は急激に低下し、2019年度始めまでに2001年度、2002年度生まれの女児は1人も接種を受けていなかった。
- リーフレットの送付前にワクチンを接種していた2003年度生まれの女子は2人だけだった。リーフレットを受け取った後、12人の女子が接種を受け、累積接種率は、1.44%(2/139人)から10.07%(14/139人)へと有意に上昇した(p=0.003)。これは、リーフレットを送付していない2002年度生まれの女子の接種率(0.00%)と比較しても、有意に高かった(p<0.001)。
- 一方、同じくHPVワクチンの対象年齢で、リーフレットの送付を行っていない2004年度~2007年度生まれの女子(小学校6年生~中学3年生)489人のうち、2019年までにワクチンを接種していたのは6人だけだった。2004年度~2007年度生まれの女子の接種率1.23%(6/489人)は、リーフレットの送付を行った2003年度生まれの女子のワクチン接種率10.07%(14/139人)よりも有意に低く(p<0.001),また,2002年度生まれの女子の接種率0.00%(0/148人)とは有意な差が見られなかった(p=0.34)。
- さらに、2019年には、リーフレットの送付対象でなかった2004年度~2007年度生まれの女子は4~7月は3人、8~12月に3人がHPVワクチンを接種していた。累積接種率は年間を通じて(リーフレット送付のタイミングの前後で)有意に上昇しなかった(3/489→6/489、p=0.51)。したがって、母親の娘へのワクチン接種意識の変化など、他の要因は影響していないと考えられた。
- これらの結果から、2003年度生まれの対象者のHPVワクチン接種率の増加は、いすみ市が個別に送付したリーフレットの影響が強いと考えられた。
ポイント
- 国によるHPVワクチンの積極的推奨の一時差し控えの中で,地方自治体から対象となる女児と保護者に子宮頸がんとHPVワクチンに関するリーフレットを送付することは有効だと示された。
著者の先生からのコメント
いすみ市の取り組みにより、積極的勧奨差し控え中にも関わらず、市内の女子のHPVワクチン接種率が有意に上昇しました。いすみ市のご担当の皆様に敬意を表したいと思います。その後、厚労省の通知が全国に発出され、全国の自治体でも対象者への案内の個別送付が始まっています。接種率が一定程度上昇することが期待されますが、これで十分というわけではなく、更なる接種率上昇に向け、皆様のご理解・ご協力をお願いいたします。